単体規定 構造計算基準の概要

〇建築基準法:20条、建築基準法施行令:81~88条
〇過去問
・管理業務主任者 2008問19
・マンション管理士 2002問42、2013問42、2020問40
 
 
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建築物に作用する力
①固定荷重(令84条)
・躯体、仕上材料等、建築物自体の重量をいう。
・建築物の実況に応じて計算するが、屋根、床、壁等の建築物の部分別に定められた数値により計算することができる。
 
②積載荷重(令85条)
・人、家具、調度物品等、移動が比較的簡単にできるものの重量。
・建築物の実況に応じて計算するが、住宅の居室、事務室、自動車車庫等、室の種類別に定められた数値により計算することができる。
 
③積雪荷重(令86条)
・”積雪の単位荷重”に”屋根の水平投影面積”及び”特定行政庁が定めるその地方における垂直積雪量”を乗じて計算する。
 
④風圧力(令87条)
・建築物の屋根の高さやその地方における風の性状等により計算される”速度圧”に、建築物の断面や平面の形状等により定まる”風力係数”を乗じて計算する。
建築物区分とその区分に適用する構造計算基準(法20条)
1)地震の大きさ・頻度と耐震性の性能基準
 
地震の大きさ        発生頻度            耐震性性能基準
・中程度(震度5強程度)  まれに発生(耐用年数中に数回) 建物が損傷しない
・大地震(震度6強~7程度) 極めてまれ(あるかないか)  人命が失われない
 
2)作用する力と変形、損傷、倒壊・崩壊
 
・作用する力が増大すると、ある領域(降伏)までは力がなくなると元の状態に戻るが、ある領域を超えると元の状態に戻らなくなり(損傷)、さらに力が増大していくと破断(倒壊・崩壊)してしまう。
 
①健全な状態、弾性範囲(一次設計)
・力を除く(地震後)と元の状態に戻る。
・旧耐震基準のチェック部分。
・地震で被災した後も、仕上材などの軽微な補修だけで、続けて使用することが可能な健全な状態を維持できる状況。
・”建物が損傷しない”ようにするには、構造材の量を増やしたり、強い材料を使って、建物を作っている構造材が”降伏”しないように全体を設計する。
 
②変形が進んで元には戻らない状態、損傷、塑性範囲(二次設計)
・力を除いても(地震後)と元の状態に戻らず、変形(損傷)が残る。
・変形は進んでいる(損傷は生じる)が破断(倒壊・崩壊)はしていない状態。
・二次設計では、大地震が起きて建物に損傷を生じたとしても、少なくても倒壊・崩壊はさせず、人命が失われないように設計する。
・建物がいかに安全に(損傷したとしても人命が失われないように)壊れるかを工学的に追及している。
・部材の壊れ方には”安全な壊れ方”と”危険な壊れ方”がある。
 
〇安全な壊れ方
・”曲げ”が支配的な壊れ方となる場合、”降伏”(=もとに戻らない状態)してから、完全に壊れてしまうまでに、少し時間的余裕がある。
 
〇危険な壊れ方
・”せん断”の場合は、降伏してすぐに、急激に壊れてしまう。
・”せん断破壊”を起こした柱のまわりに、上からの建物の重みを支える他の要素がない場合は、その柱の周囲では、上階の建物部分が一気に落ちてくることになる。
 
3)一次設計と二次設計の概要
 
①一次設計(許容応力度計算)
・”中規模の地震動でほとんど損傷しない”ことの検証を行う。
 部材の各部に働く力 ≦ 許容応力度
・建築物の存在期間中に数度遭遇することを考慮すべき稀に発生する地震動に対してほとんど損傷が生ずるおそれのないこと。
※許容応力度とは?
・部材を構成する材料の破壊強度を安全率で除した応力度。
 
②二次設計(保有水平耐力計算など)
・”大規模の地震動で倒壊・崩壊しない”ことの検証を行う。
 保有水平耐力比 Qu/Qun ≧ 1
・建築物の存在期間中に1度は遭遇することを考慮すべき極めて稀に発生する地震動に対して倒壊・崩壊するおそれのないこと。
・二次設計には、以下の計算方法などがある。
 ・”保有水平耐力計算”
 ・より略算的な”許容応力度等計算”
 ・より高度な構造計算方法である”限界耐力計算”
・二次設計は地上部分だけ行い,地下や基礎,杭は不要。
→地下部分が損傷を受けても建物が倒壊するような被害はまず起こらないため。
 
〇保有水平耐力
・保有水平耐力とは、建物自身が実際に保有している水平耐力
・建築物の一部又は全体が地震力の作用によって崩壊メカニズムを形成する場合において、各階の柱、耐力壁及び筋かいが負担する水平せん断力の和として求められる。
・建築物の保有水平耐力(Qu)は、必要保有水平耐力(Qun)より大きくなるように設計する。
地震力(令88条)
1)地震力の概要
 
●地震力とは?
・地震によって建物に働く力(加速度)のこと。
・地震は、地下に震源をもつため、下から突き上げる力と、横に揺らす力が同時に存在するが、従来から、この下方向からの力は、建物を横に揺らす力の約50%と言われていることから、耐震性能として問題とするのは、横に揺らす力(水平力)で測定される。
・地震力は建物の重量に比例するため、1階と2階にかかる地震力を比較すると、1階部分は2階部分の荷重も加わるため、約2倍の地震力が働くと想定される。
 
●地震力に対する設計
・設計では、地震によって床位置に作用する最大水平外力を予想し、その水平外力に対して、建物の各層が安全であるように部材断面を決定していくことになる。
→建物各層に生じる最大せん断力の大きさを求め、各層が安全であるように設計する。
 
地震のエネルギーは基礎から建物の上部へ侵入して、建物を振動させようとする。
→設計では、各層毎に生じる地震力(層せん断力(Qi)という)を求め、各層が安全であることを確認する。
 
Qi = CiΣW
 Qi:層せん断力
 Ci:層せん断力係数
 ΣW:i階よりも上層の建物重量の合計(固定荷重、積載荷重、積雪荷重)
 
3)層せん断力係数(Ci)
 
Ci = Z・Rt・Ai・Co
 Z:地震地域係数
 Rt:振動特性係数
 Ai:地震層せん断力分布係数
 Co:標準層せん断力係数
 
4)Z:地震地域係数
 
・地域毎に想定される地震の大きさによって定められている低減率。
・各地方における過去の地震の記録に基づく被害の程度、地震の活動状況等に応じて定められている。
・本州太平洋側における数値は1.0とされているが、九州では0.8又は0.9となっている。
 
〇令88条
・その地方における過去の地震の記録に基づく震害の程度及び地震活動の状況その他地震の性状に応じて1.0から0.7までの範囲内において国土交通大臣が定める数値。
 
5)Rt:振動特性係数
 
・地盤の硬さと建物の固有周期(高さと構造形式等で決まる)に応じて定められている低減係数
 
〇建物の固有周期
・固い建物では大きな地震力を受けやすいが、柔らかい建物になると建物が受ける地震力を受け流す性質があるので、地震力は小さくなる。
・建物の固さや柔らかさの度合いは建物の固有周期によって表され、設計では周期が長ければ長いほど低減率を大きくとることができるようにしてある。
 
〇地盤の影響
・固い地盤の上に立つ固有周期の短い建物は揺れやく、柔らかい地盤の上に立つ固有周期の長い建物も揺れやすい性質がある。
→地盤を硬質、普通、軟弱の3種類に分けて、建物の固有周期が長くなると、低減係数を硬質地盤ほど大きく、軟弱地盤ほど小さくとるようにしてある。
・同じ固有周期の建物ならば、柔らかい地盤ほど揺れが大きくなる(係数が大きくなる)。
 
6)Ai:地震層せん断力分布係数
 
・建物の高さ方向の地震力の違いを求める係数で、高い階ほど地震力が大きくなるので、係数も大きくなる。
 
7)Co:標準層せん断力係数
 
〇Co=0.2、中地震(頻繁に起こる地震)
・中地震(頻繁に起こる地震)に対して、建物に損傷を起こさせないように設計するときの荷重レベル。
・通常、Co=0.2(2割の重力加速度が建物に作用する)として設計している。
 
〇Co=1.0、大地震動(極めてまれな、非常に大きな地震)
・大地震動に対して、建物が危険な崩壊を起こさせないように設計するときの荷重レベル。
・通常、Co=1.0(重力加速度が建物に作用する)として設計している
・必要保有水平耐力を計算する場合においては、前項の規定にかかわらず、標準せん断力係数は、1.0以上としなければならない。
建築物区分とその区分に適用する構造計算基準(法20条)
①超高層建築物(高さ60m超)
・時刻歴解析(令81条1項)
②大規模な建築物(RC:高さ20m超など)
・保有水平耐力計算(令81条2項1号イ、令82条~82条の4)
・限界耐力計算(令81条2項1号ロ、令82条の5)
・許容応力度等計算(令81条2項2号イ、令82条の6)
③中規模な建築物(2階以上or延べ面積200m2超)
・許容応力度計算(令81条3項、令82条)
④小規模な建築物(上記以外)
・構造計算が不要
許容応力度計算
1)許容応力度の概要
 
〇許容応力度とは?
・部材を構成する材料の破壊強度を安全率で除した応力度。
・許容応力度には、長期と短期とがあり、長期は常時荷重に対して、短期は地震時、暴風時、積雪時に対して検討を行うためのもの。
 
〇許容応力度設計の概要
・荷重を支える主要構造部材を抽出して、適切なモデル化を行う。
・構造力学や材料力学の力を用いて、部材内部に働く抵抗力(応力)を求める。
・各部材に予想される最大の応力に耐えられるだけの部材断面を決める。
 
2)許容応力度計算
 
・許容応力度計算においては、原則として、各部材のひび割れの発生、曲げ降伏、せん断破壊は生じさせないという仮定により、各部材を弾性体とみなし、線材に置換して応力解析を行う。
 
①荷重・外力
〇固定荷重:G(令84条)
・躯体、仕上げ材料等、建築物自体の自重のことをいい、屋根、床、壁等が含まれ、部分別に定められた数値により計算する。
〇積載荷重:P(令85条)
・人、家具、調度物品等、移動が比較的簡単にできるものの重量。
・住宅の居室、事務室、自動車車庫等、室の種類別に定められた数値により計算することができる。
・床の単位面積当たりの積載荷重は、構造計算の対象により異なり、その数値を大きい順に並べると、[床の構造計算をする場合]→[大ばり、柱又は基礎の構造計算をする場合]→[地震力を計算する場合]の順となる。
〇積雪荷重:S(令86条)
・”積雪の単位荷重”に”屋根の水平投影面積”及び”その地方における垂直積雪量”を乗じて計算。
・積雪の単位荷重は、積雪量1㎝ごとに1㎡につき20ニュートン以上としなければならない。
〇風圧力:W(令87条)
・”速度圧”に”風力係数”を乗じて計算。
〇地震力:K(令88条)
 
②応力度の計算
・応力の組合せは、令82条第2項に定めるところとし、それ以外の力が加わる場合には、実況に応じて組合せる。
〇長期
・常時:G+P
・積雪時:G+P+0.7S
 
〇短期
・積雪時:G+P+S
・暴風時:G+P+W、G+P+0.35S+W
・地震時:G+P+0.35S+K
 
③構造材料の許容応力度
・令90条:鋼材等
・令91条:コンクリート
・令92条:溶接
・令92条の2:高力ボルト接合
・令94条:補則
 
④応力度<許容応力度の確認
・構造耐力上主要な部分ごとに、上記で計算した長期及び短期の各応力度が、長期に生ずる力又は短期に生ずる力に対する各許容応力度を超えないことを確かめる。
許容応力度等計算
1)層間変形角の確認(令82条の2)
 
●層間変形角の概要
・層間変形角は、建物の構造計画をする場合において、2次設計で最初に行う検討。
・地震によって水平力を受けた建物が変形した際、水平方向の層間変位を当該の階の高さで割った数値のこと。
・架構がまとっている内外装材等が地震によって脱落、崩壊するのを防ぐために行うもので、規定値は1/200以下。
・帳壁や内外装材、設備等に相応の措置が講じられている場合に限って1/120以下まで緩和が認められる。
・鉄骨ラーメン造などの柱・梁部材断面はこの規定値によって決まることが多い。一方ブレース構造は剛性が大きいので規定値を越えることはまれである。
 
●層間変形角の計算
 
R = δ / h
 
R:層間変形角
δ:一次設計用地震力により当該階に生じる層間変位(m)
h:当該階の階高(m)
 
2)剛性率の確認(令82条の6第2号イ)
 
●剛性率の計算
・建築物の地上部分について,次の式により剛性率を計算する。
・各階の剛性率が,それぞれ0.6以上であることを確認する。
 
Rs = rs / r(-)s
 Rs:各階の剛性率
 rs:各階の層間変形角の逆数(=h / δ)
 r(-)s:当該建築物についてのrsの相加平均
 h :当該階の階高(m)
 δ:一次設計用地震力により当該階に生じる層間変位(m)
 
●設計上の注意点
・地震エネルギーは、建物の弱いところに集中する傾向がある。
・剛性率は、各層の剛性のバランスの程度を示す指標。
・剛性率は,当該階の水平剛性が地上部分の平均値に対して大きいか,小さいか,そのレベルを示している。1.0に近いほど良い。
 剛性率が1.0より大きい階は,他の階に比べて相対的に剛性が大きい階であり,1.0より小さい階は相対的に剛性が小さく変形しやすい階である。
 
・立面的な剛性バランスが悪い建築物では,地震時に剛性の小さい階に変形や損傷が集中しやすい。
 そのため,剛性の立面的なアンバランスを避けるために,各階の剛性率を検討する。
 
・立面的な剛性バランスが悪い代表的な建築物としては,ピロティ階を持つ集合住宅があげられる。
 ピロティ階のような剛性率の小さい階には,地震のエネルギーが集中して過大な水平変形が生じる。
 
3)偏心率の確認(令82条の6第2号ロ)
 
●偏心率の計算
・建築物の地上部分について,次の式により偏心率を計算する。
・各階の偏心率が,0.15以下であることを確認する。
 
Re = e / re
 Re:各階の偏心率
 e(偏心距離):各階の構造耐力上主要な部分が支える固定荷重及び積載荷重の重心と当該各階の剛心をそれぞれ同一水平面に投影させて結ぶ線を計算しようとする方向と直交する平面に投影させた線の長さ(単位 ㎝)
 re(弾力半径):各階の剛心周りのねじり剛性の数値を当該各階の計算しようとする方向の水平剛性の数値で除した数値の平方根(単位 ㎝)
 
●設計上の注意点
・偏心率は、耐震要素の配置について、平面的なバランスを示す指標。
・偏心率は、0に近いほど耐震要素の平面的バランスが良い。
・地震力は,当該階の重心に作用するため,重心と剛心の位置が異なる場合には,建築物は水平方向に変形するとともに,剛心周りに回転する。そのため,重心と剛心の距離(偏心距離)が大きい場合には,建築物の外周にある柱などは他の部材に比べて大きな変形が生じることになり,地震時には損傷が大きくなることが危惧される。
 
・偏心率は,重心と剛心の偏りのねじり抵抗に対する割合である。したがって,偏心率が小さい階は,剛心と重心が平面的に近いため,ねじれ変形が小さい階である。一方,偏心率が大きい階は,剛心と重心が平面的に離れているため,ねじれ変形が大きくなり,損傷が生じやすい階である。
 
・平面的な剛性バランスが悪い建築物では,地震時にねじれ振動が生じて大きな損傷が生じやすい。そのため,剛性の平面的なアンバランスを避けるために,各階の偏心率を検討する。
 
・偏心率は,柱や耐震壁などの耐震要素への変形の集中度合を偏心距離と弾力半径の比率で評価する指標であるので,各階が剛床であるとの仮定に基づいている。
 したがって,平面的な吹抜けがある建築物では,偏心率により耐震要素への変形集中の影響を評価できない場合があるので注意する必要がある。
保有水平耐力の計算
1)保有水平耐力の概要
 
・保有水平耐力とは、建物自身が実際に保有している水平耐力
・建築物の一部又は全体が地震力の作用によって崩壊メカニズムを形成する場合において、各階の柱、耐力壁及び筋かいが負担する水平せん断力の和として求められる。
・建築物の保有水平耐力(Qu)は、必要保有水平耐力(Qun)より大きくなるように設計する。
 
2)保有水平耐力の算定
 
・建築物の保有水平耐力は、各部材及び接合部の終局強度に基づき、適切な崩壊メカニズムを設定して算定する。
・保有水平耐力は、当該建築物の全体又は一部が地震力により崩壊メカニズム(全体崩壊形,部分崩壊形,局部崩壊形)を形成する場合において,各階の柱及び耐力壁などが負担する水平せん断力の和として求められる値。
・原則として、崩壊メカニズムが全体崩壊形となるように設計する。
・保有水平耐力は増分解析法等により計算する。
 
●建築物の崩壊メカニズムにおける崩壊形
①全体崩壊形
・建築物が全体として不安定な状態になるのに十分な塑性ヒンジが形成されたとき。
・梁端部,最上階柱頭,一階柱脚・壁脚に塑性ヒンジが生じ,建物全体が水平力に耐えられなくなる状態。
②部分崩壊形
・建築物のある特定の階が部分的に不安定な状態になるのに十分な塑性ヒンジが形成されたとき。
・特定の階における全ての柱頭や柱脚の塑性ヒンジ発生やせん断破壊等により,特定階が水平力に対して耐えられなくなる状態
③局部崩壊形
・建築物のある特定の部材が破壊し、水平力に対して引続き耐えられる状態であっても、鉛直荷重に対して架構の一部が耐えられなくなる状態となったとき。
・いずれかの部材が破壊して常時荷重に対して架構が耐えられなくなる状態。
 
3)必要保有水平耐力の計算
 
①地震力に対する各階の必要保有水平耐力(令82条の3第2号)
Qun = Ds・Fes・G・Qud
 Qun:各階の必要保有水平耐力(単位 キロニュートン)
 Ds:構造特性係数
 Fes:形状係数
 Qud:地震力によつて各階に生ずる水平力(単位 キロニュートン)
 
②構造特性係数(Ds)
・各階の構造特性を表すものとして、建築物の構造耐力上主要な部分の構造方法に応じた減衰性及び各階の靱じん性を考慮して国土交通大臣が定める数値。
・各階の減衰性および靭性を考慮して、柱、はり、耐力壁、筋交いの種別を判別した0.25~0.55の範囲の低減係数。
・変形能力に富んだ建築物では,塑性変形能力による地震エネルギー吸収能力などに応じて必要な水平抵抗力を低減することができる。
→この塑性変形能力などによる低減係数が構造特性係数。
・構造特性係数は、部材の破壊等により急激な架構耐力の低下を生じないように決定する。
・ねばりのある構造物であれば、層せん断力の低減率を大きく、すなわち、構造特性係数を小さくすることができる。
・通常、鉄骨造ではDs=0.25~0.5、鉄筋コンクリート造ではDs=0.3~0.55。
 
③形状係数(Fes)
・各階の形状特性を表すものとして、各階の剛性率及び偏心率に応じて国土交通大臣が定める方法により算出した数値。
・耐力壁などの立面的,あるいは平面的な偏りは,地震エネルギーの集中を招く。
→そのため,このような偏りが大きい階では,必要な水平抵抗力を割増して,地震エネルギーの各階への分散を図ることとする。
→この剛性の偏りによる割増し係数が形状係数。
・形状係数は,剛性率及び偏心率から規定されている。
Fes = Fs・Fe
 Fes:各階の形状係数
 Fs:各階の剛性率に応じた値
 Fe:各階の偏心率に応じた値
 
〇各階の剛性率に応じた値Fsの計算
Rs ≧ 0.6 の場合 Fs = 1.0
Rs < 0.6 の場合 Fs = 2.0 – Rs / 0.6
 Rs :各階の剛性率
 
〇各階の偏心率に応じた値Feの計算
Re ≦ 0.15 の場合 Fe = 1.0
0.15 < Re < 0.3 の場合 Fe = 1.0 + 0.5 ( Re – 0.15 ) / 0.15
0.3 ≦ Re の場合 Fe = 1.5
 Re :各階の偏心率
 
●形状係数の算出と設計
 
・形状係数Fesは,建築物の立面的及び平面的な剛性バランスによる必要保有水平耐力の割増し係数。
・Fesは上記に示したように,立面的な剛性バランスを表す剛性率Rsに応じた値Fsと平面的な剛性バランスを表す偏心率Reに応じた値Feの2つの値を乗じて計算される。
・Fsの値は、1.0≦Fs≦2.0,Feの値は1.0≦Fe≦1.5をとるので,Fesの値は1.0≦Fes≦3.0となる。
→立面的にも平面的にも剛性バランスの悪い建築物では,必要保有水平耐力の割増し係数が最大3.0となり,極めて厳しいペナルティが課せられるので,実務設計的には,構造計画の見直し等,剛性バランスの改善が求められることになる。
・形状係数の算定に用いられる剛性率や偏心率の算定には,部材の剛性の評価が重要。
 特に,鉄筋コンクリート造建築物では,鉄筋コンクリート造の腰壁やそで壁等の非耐力壁に関する剛性評価が剛性率又は偏心率の算定結果に与える影響が大きい。
 そのため,非耐力壁の取り扱いには,十分に注意し,必要に応じて複数の剛性評価ケースについて検討する等,耐震的に安全側と判断できる剛性評価を行うような設計的な配慮が求められる。
限界耐力計算
1)限界耐力計算の概要
 
・限界耐力計算は、保有水平耐力計算や許容応力度等計算等で想定する荷重・外力に加えて、極めて稀に発生する最大級の積雪及び暴風に対する安全性を直接検討するとともに、極めて稀に発生する地震動に対する建築物の変形を計算し、その変形に対して安全であるように部材を設計することで安全性を確認する手法。
 
〇利用時の注意点
・限界耐力計算は、建築物の剛性と減衰が等価な1質点系のモデル化により応答を推定する方法であるため、建築物の性状が、モデル化に対して適切であるかを十分確認し採用する。
・限界耐力計算は、建築物の応答が1次振動モードが支配的であることを前提として、建築物の振動特性を代表する等価1自由度系の応答に基づいて、建築物の応答を評価するもの。
→高次振動モードが卓越するような高層建築物等の場合には、その応答の影響を適切に考慮する必要がある。
 
2)中程度の地震
 
●概要
・建物の存在期間中に1回以上遭遇する可能性の高い中程度の地震を想定。
・建物の各階が損傷する限界(その階のある部材が短期許容応力度に達するとき)の層間変位(損傷限界変位)、層せん断力(損傷限界耐力)を計算。
→損傷限界耐力 ≧ 地震力、層間変位/各階の高さ ≦ 1/200 であることを確認する。
・地震による加速度によって建築物の地上部分の各階に作用する地震力及び各階に生ずる層間変位を計算し、当該地震力が、損傷限界耐力を超えないことを確かめるとともに、層間変位の当該各階の高さに対する割合が1/200(地震力による構造耐力上主要な部分の変形によつて建築物の部分に著しい損傷が生ずるおそれのない場合にあつては、1/120)を超えないことを確かめる。
 
※損傷限界耐力
・建築物の各階の構造耐力上主要な部分の断面に生ずる応力度が短期に生ずる力に対する許容応力度に達する場合の建築物の各階の水平力に対する耐力をいう。
 
●地震力の算出、確認
①損傷限界変位の計算
・損傷限界変位とは、各階が、損傷限界耐力に相当する水平力その他のこれに作用する力に耐えている時に当該階に生ずる水平方向の層間変位
 
②損傷限界固有周期の計算
・損傷限界固有周期とは、建築物のいずれかの階において、①の損傷限界変位に相当する変位が生じている時の建築物の固有周期。
 
③地震力の計算
・地震により建築物の各階に作用する地震力を、損傷限界固有周期に応じた計算式によつて計算した当該階以上の各階に水平方向に生ずる力の総和として計算する。
 
④損傷限界耐力 ≧ 地震力を確認
 
●層間変位の算出、確認
①層間変位を計算
・各階が、上記によつて計算した地震力その他のこれに作用する力に耐えている時に当該階に生ずる水平方向の層間変位を計算。
 
②層間変位/各階の高さ ≦ 1/200 を確認
 
3)大地震
 
●概要
・極めてまれに発生する最大級の地震を想定。
・建物のある部材が部材の限界変形角に達するときの層間変位(安全限界変位)、及びそのときの保有水平耐力を計算する。
 
●地震力の算出、確認
①安全限界変位の計算
・安全限界変位とは、各階が、保有水平耐力に相当する水平力その他のこれに作用する力に耐えている時に当該階に生ずる水平方向の最大の層間変位。
 
②安全限界固有周期の計算
・安全限界固有周期とは、建築物のいずれかの階において、①の安全限界変位に相当する変位が生じている時の建築物の周期。
 
③地震力の計算
・地震により建築物の各階に作用する地震力を、安全限界固有周期に応じた計算式によつて計算した当該階以上の各階に水平方向に生ずる力の総和として計算する。
 
④保有水平耐力 ≧ 地震力を確認
時刻歴応答解析
〇時刻歴応答解析とは?
・主に高層建築物等に用いられている構造計算方法のこと。
・建築物を質量・ばね・減衰でモデル化した上で、地表面に時間とともに変化する地動加速度を与え、建築物の各階の応答加速度、速度、変位を計算する方法。
・上記で求めた力及び変形が当該建築物の各部分の耐力及び変形限度を超えないことを確かめる。
 
〇建築基準法の規定
・建築基準法では、高さ60m超の超高層建築物等の構造計算を行う場合は、
①時刻歴応答解析法を用いること
②国土交通大臣が指定する特定性能評価機関でその構造計算内容等の審査を受けること、とされている。

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