管理費滞納者が不明時の管理組合の対応方法

管理費を滞納している区分所有者と連絡がつかない状態となっている場合の管理組合の対応方法についてまとめました。
 
※滞納者に対する訴訟などの法的手続きについては以下の記事参照 管理費の滞納に関する管理組合の対応  
※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
連絡がつかなくなってからの対応の流れ
①登記事項証明書の確認
・所有者・抵当権者の確認
 
②住民票(除票)の取得
     ↓       ↓
     死亡      ③所在不明
   ↓    ↓
 抵当権なし ④抵当権者がいる場合の対応
 ↓
⑤相続人調査
・弁護士や司法書士等に依頼
 ↓            ↓
 法定相続人なし・不明  法定相続人あり
 ↓           ↓  ↓
 ↓           ↓ ⑥法定相続人に管理費等の請求
 ↓           法定相続人全員の相続放棄
 ↓           ↓
⑦家庭裁判所へ相続財産管理人の選任を請求
・要予納金(約100万~)
 
※賃借人が居住している場合
・賃借人や賃貸不動産管理会社等に確認する。
・区分所有者の現住所が判明しないことによる不利益(総会資料の送付や管理費等の滞納の遅延損害金の発生等)を説明すると協力を得やすくなる。
登記事項証明書の確認
(1)登記事項証明書の確認
 
・売買や相続があったことが分かる場合がある。
 
〇相続の場合
・相続により区分所有者が変更になった場合等には、新しい区分所有者は管理規約の存在を知らず、必要な手続きがなされない可能性がある。
 
〇抵当権の記載がある場合
・抵当権の設定があったとしても、債務の返済が完了している可能性もゼロではない。
→債務者である区分所有者が抵当権抹消の手続きをしない限り、自動で抹消されることがないため。
 
(2)不動産登記法の改正概要(令和3年4月28日公布)
 
1)相続登記の申請を義務化(公布後3年以内の施行)
 
・不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内の相続登記の申請を義務付け
・相続登記の申請義務の実効性を確保するための環境整備策の導入
 
〇相続人申告登記の新設
・相続人が、登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることで、申請義務を履行したものとみなす。
※登記官がその者の氏名及び住所を職権で登記する
 
〇所有不動産記録証明制度の新設
・特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産の一覧を証明書として発行
 
2)登記名義人の死亡等の事実の公示(公布後5年以内施行)
 
・登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報に基づいて、職権で登記に表示
 
3)住所変更未登記への対応等(公布後5年以内施行)
 
・所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内の変更登記申請を義務付け
・他の公的機関から取得した情報に基づき、登記官が職権的に変更登記をする新たな方策も導入
住民票(除票)の取得
(1)本人以外の申し出による住民票の写し等の取得
 
1)取得できる者
 
・管理組合の理事長等
・弁護士、司法書士、行政書士等に依頼して取得
 
●住民基本台帳12条の3(本人等以外の者の申出による住民票の写し等の交付)
①市町村長は、・・・住民基本台帳について、次に掲げる者から、住民票の写し・・・が必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該申出をする者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
一 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者
三 前二号に掲げる者のほか、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある者
 
②市町村長は、・・・住民基本台帳について、特定事務受任者から、受任している事件又は事務の依頼者が同項各号に掲げる者に該当することを理由として、同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書が必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該特定事務受任者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
 
③前項に規定する”特定事務受任者”とは、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士又は行政書士をいう。
 
2)住民票又は除住民票の写しの請求
 
・住民票が無い場合は、除住民票を交付してもらう。
・除住民票の保存期間の5年が過ぎていると交付が受けられない場合がある。
 
(2)戸籍の附票の取得
 
・除住民票を取得する際には、本籍の記載もしてもらい、本籍地を確認する。
・本籍地の自治体に戸籍の附票を請求すると住所の履歴が分かるため、現在の住所地が判明する可能性がある。
所在が不明な場合
(1)区分所有者の所在が不明な場合の管理費等滞納の対応
 
〇支払督促、少額訴訟
・所在が不明の場合は実行できない。
 
〇通常訴訟、先取特権に基づく競売の申し立て
・以下のような必要な手続きを経ることで実行可能。
・滞納している区分所有者が所在不明であることは、その住所を通常の方法(住民票を取り寄せ、その記載地に出かけて現地調査したり、近隣居住者・親族等に行方を尋ねたり)を講じても判明しなかったことを”調査報告書”を作成して証明する。
 
(2)不在者財産管理人の選任
 
・区分所有者の連絡先が手を尽くして調べてもわからない場合や生死が不明の場合には、不在者財産管理人の選任申し立てを行って対応を進めることが考えられる。
 
1)申し立てる裁判所
 
・所在不明区分所有者の従前の住所を管轄する家庭裁判所
・審判申立て時に移送の申立てもできる。
 
2)不在者財産管理人候補
 
・特に資格に制限はない。
 
3)不在者財産管理費用の予納
 
・不在者の財産から管理人の報酬を含む管理費用の財源が見込めない場合は、申立人に予納が求められる。(費用の目安:30万円~)
抵当権者がいる場合の対応
債務者である区分所有者が死亡した場合、債権者である抵当権者への支払いは停止するはずなので、いずれ抵当権者が抵当権を実行して不動産競売手続きに着手することが期待できる。
 ↓
競売手続きが始まった場合、管理組合は買受人が納付した代金の中から配当が受けられるよう配当要求をするか、新しい区分所有者に滞納管理費等を請求するかどちらかで滞納額の回収をする。
 
●住宅ローンの場合
・ローン利用時に団体信用生命保険に加入していると、加入者が死亡した際には保険金でローンが返済されて、抵当権が抹消されることになる。
 ↓
相続人に対して対応をする必要がある。
 
●注意点
・滞納管理費等の請求権には5年の時効があるので、滞納発生から5年以内に抵当権者が抵当権を実施しない場合には、管理組合が自ら法的手続きをする必要があるが、管理組合への配当の見込みがない場合には無剰余による競売の取消となるため、区分所有者が持つ他の債権の強制執行や、区分所有法59条による”区分所有権の競売の請求”を検討することになる。
法定相続人に管理費等の請求
1)相続人の調査
 
・法定相続人がいるのか、それが誰なのかを調べるためには、戸籍謄本を調べることになる。
・弁護士等に依頼する。
 
※令和3年の不動産登記法の改正により、不動産の相続人は相続が発生してから3年以内に登記申請をしなければならなくなるため、相続人の明確化が進むことが期待される。
 
2)相続放棄申述の照会
 
・相続人調査にて相続人が居ると判明すると、管理組合は弁護士等に依頼し家庭裁判所に相続放棄申述の照会を行い、もし相続放棄をしていない該当者がいた場合は、相続をするか否かの確認へと進む。
 
3)法定相続人に管理費等の請求
 
・該当者が相続を選択した場合は、新たな区分所有者にこれまで滞納されている管理費等の請求ができるため、管理組合としての未収金の課題は解決される。
・相続が確定する前の段階では、管理組合は、死亡前からの滞納分については、法定相続分の割合に応じて各相続人に請求し、死亡後に発生した滞納分については、各相続人が不可分に負担するので、各相続人に対し全額を請求することができる。
相続財産精算人の選任
(1)相続人が確定しない場合
 
●相続人の不存在
・法定相続人がいなかったり、法定相続人全員が相続を放棄すると、相続人がいない状態になる。
・相続人が存在しない場合は、管理組合は民法952条第1項に基づく相続財産清算人選任の申立てを行うかどうかという選択を迫られる。
 
〇相続が放棄されるケース
・住戸の利用価値や財産価値が低かったり、被相続人に他の債務が存在したりすることもあり、その処理には困難を伴う場合が多い。
 
●相続人の未確定
・法定相続人がいる場合でも、協議が整わず当該住戸の相続人が決まらない状態となっていることがある。
・相続人が決まるまでの間、法定相続人が管理に無理解だと管理に影響がでくる。
※令和3年の民法改正により、相続開始から10年を経過したときは、画一的な法定相続分で遺産分割を行う仕組みが創設される。(公布後2年以内の施行)
 
(2)相続財産の清算人の選任
 
1)”相続財産清算人の選任”についての概要
 
相続財産清算人の選任 | 裁判所
相続人の存在,不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして,結果として相続する者がいなくなった場合も含まれる。)には,家庭裁判所は,申立てにより,相続財産の清算人を選任する。
 相続財産清算人は,被相続人(亡くなった方)の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い,清算後残った財産を国庫に帰属させることになる。
 
●民法の規定
〇951条(相続財産法人の成立)
・相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
〇952条(相続財産の清算人の選任)
・前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
 
3)マンションにおける対応
 
・相続財産清算人は、マンション住戸以外の財産を含め、相続財産の管理を行う必要がある。
・管理組合は、管理費等に関する債権を申し出て、相続財産の中から弁済を受ける。 最終的に残余金があれば、国庫に帰属する。
 
4)管理組合の対応
 
・管理組合は、被相続人に対して、滞納金回収の債権を持っているため、利害関係人になりえる。
・相続財産清算人の選任の申し立てについては、必要書類の準備が煩雑であるだけでなく、相続財産清算人に支払う報酬額等を裁判所にあらかじめ納付することが求められる。
 この予納金については、多い場合は100万円程度となることもあり、予納したお金が必ずしも戻ってくるわけではない。
 
〇管理組合が申立てを行う場合に必要となる費用
・弁護士や司法書士による裁判所への申立書作成に係る費用のほか、収入印紙代や官報公告料が発生。
・相続財産の内容から相続財産清算人が相続財産を管理するために必要な費用として予納金を納付する必要がある。(予納額は事例によって異なるが、概ね100万円前後と言われている。)
・相続財産清算人が相続財産を管理するために必要な費用(相続財産清算人に対する報酬を含む。)に不足が出る場合には、予納金から充てられるため、全額が管理組合に戻るとは限らず、申立てを行う管理組合側の支出となることもある。

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