マンション排水管の劣化

マンションの排水管、排水システムの種類、変遷、劣化についてまとめました。  
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排水管の材質の変遷
●雑排水管とその継手
 
・初期の頃は、配管用炭素鋼鋼管とドレネージ継手が使用されていた。
・近ごろは排水用硬質塩化ビニルライニング鋼管とメカニカルドレン(MD)継手、耐火二層管(内管が塩化ビニル管で外管がモルタル繊維強化された耐火管)と排水通気用耐火二層管継手、樹脂コーティングを施した鋳鉄製排水管継手等が採用されるようになってきている。
 
●汚水排水管とその継手
・初期の頃は、鋳鉄管の鉛接合だった。
・近ごろは排水用鋳鉄管のワンタッチ接合が一般的。
 
●雨水排水管
・配管用炭素鋼鋼管、硬質塩化ビニル管のほか、アルミ管も最近では使用されるようになってきている。
排水管の劣化要素
〇排水質要素
・台所から流される腐食物(油類や食品屑)が管内面に付着し鋼管を孔食する。
 
〇伸縮要素
・温排水による管の伸縮で継手廻りが破断。
 
〇地盤沈下要素
・1階床下で土間配管されている横主管の場合は、土の圧密沈下から継手の抜けや破断が起こる。
 
〇電食要素
・土質により排水管接触部電位差が発生し管外面から腐食する。
 
〇施工品質要素
・ねじ込み不足、防錆処理不足、排水勾配不足
 
〇維持管理要素
・排水管清掃時のステンレス製高圧ホースが継手部で接触し、こすられて摩耗して穴があく。
用途、使用箇所ごとの排水管劣化
1)排水系統ごとの排水管の劣化状況
 
●台所系の排水管
〇スライム
・洗剤、油脂類、野菜くずなどが管内面に付着してスライム状に。
→管がやせて排水の流れが悪くなる。
 
※鋼管の場合
・付着したスライムに鉄を腐食させるバクテリアが発生するため、管に孔があいて漏水の原因となる。
 
〇そばやうどんの茹で汁
・そばやうどんを茹で上げたあとのざる越しに捨てた茹で汁は、何度も続けると配管の熱伸縮により継手部が損傷し、漏水の原因となることがある。
 
●浴室系、洗面系、洗濯系の排水管
・台所系に比べれば腐食は少ない。
・石鹸、身体から出る脂、髪の毛、糸くずなどが、排水トラップ器具部や配管内部に付着し、管詰まりによって漏水することがある。
・掃除をせずにトラップを構成するお椀を外して使用していると、悪臭の原因となったり、虫が発生したりする。
 
●汚水系の排水管
・腐食は少ない。
・排水口径が他の排水管より太いため、詰まりも少ない。
→故意や不注意で異物を流さなければ排水管洗浄を行わなくても良いと言われている。
・高経年マンションでは尿石などの付着による詰まりが起こることがある。
 
2)使用箇所ごとの排水管の劣化状況
 
●土中埋設管
・敷地の沈下、勾配不良等によって劣化する。
〇鋼管の外面の腐食
・管の外面から腐食が発生して漏水を起こす。
※給水管の場合は防食テープなどで防食している場合が多い。
〇接合部の外れ・割れ
〇管内のつまり
・1階床下に配管ピットがなく、吊支持材も腐食して塩ビ管が土間に直接置かれているような状況になっていると、土の圧密によって管にたわみが生じ、たわんだ部分に汚物などが堆積して流れにくくなったり、継手から管が抜け落ちて漏水に至ることもある。
 
●たて主管
・熱による伸縮、腐食の進行、通気不良、付着堆積物等によって劣化する。
〇配管の破断
〇排水不良
 
●枝管
・勾配不良、熱による伸縮、通気不良、付着堆積物等によって劣化する。
・金属系の排水管では、台所流しの横引排水管の劣化が速い。
〇管内のつまり
〇配管の破断
〇排水不良
 
●通気管
・施工業者が、通気管には空気しか流れないと思い管のねじ込みが甘かったりすると、そこから漏水が発生することがある。
←浴室等からの温排水による多湿空気が外気に触れる場所で結露を起こし、その結露水が通気管内を流れるため。
 
●排水管高圧洗浄の注意点
・外皮にステンレスワイヤーメッシュなどの金属被覆が施されたホースで洗浄してしまうと、ホースの出し入れの繰返しで排水立管と排水横枝管をつなぐ継手部の下面が摩耗し、ホースに沿って溝状の傷がつき漏水に至るケースが見受けられる。
→これを防ぐため、ステンレスホースの使用は避け、樹脂で被覆された洗浄ホース選定することが常識となっている。
配管用炭素鋼管(SGP)
・汚水管、雑排水管、通気管として広く使われていた。
・鋼管の内面と外面に亜鉛メッキが施されているだけなので、全面的な腐食が生じてしまう。
 
●排水系統と腐食
・耐用年数は流される排水の種類によってかなり差がある。
・最も寿命が短いのは、台所からの排水が単独で流れる部位。
・台所系排水横引管では、管底にスライムがたまり、好色性バクテリアを生じて直管部分でも穴があくこともある。
・階によっても違いがあり、下に行くほど腐食する。
 
〇台所の排水立管の腐食
・調理くずによる付着物が腐敗し、腐食性ガスにより管壁に孔があく。
 
●継手部の腐食:ねじ込み式排水管継手(ネジ接合)
・ねじ込み式のドレネージ継手部分で管端ネジの肉薄箇所から錆が始まり、錆がさらに進行すると管に穴があいて漏水する。
・ドレネージ接合による”ねじ接合”の場合の接合部分は特に、ねじ切り加工によって肉厚が管本体の半分程度しかなくなっているので、腐食減肉による漏水が生じやすい。
 
●その他の腐食
〇溝状腐食
・鋼板を管状に曲げ溶接してつくる電縫鋼管。溶接部分が溝状に腐食。
排水用ビニルコーティング鋼管(アルファ―鋼管)
・配管用炭素鋼管の腐食問題への対応と、マンション建設ラッシュによる施工省力化の要請を受けて、昭和50年代に入って利用され始めた。
・配管の軽量化を図るため薄肉の鋼管を採用し、接合はねじ切りではなく、差し込むだけの方法とし、工場であらかじめ必要な寸法に加工して現場に納品する”プレハブ加工工法”により、現場施工の省力化を実現した。
・防錆処置として、内面外面共に塩化ビニル樹脂による被覆が施されているが、密着精度があまり高くなく、使用開始後25年を過ぎるころに被覆が膨れ始める事例が多い。
・経年劣化で、防食皮膜の塩化ビニル樹脂が剥がれ、露出した鉄部が腐食して孔があく事例が発生している。
 
●継手:ソベント継手
・接合はねじ切りではなく、差し込むだけの方法。
・差し込み接合部分の管端部分や溶接加工部分に局部的に腐食が発生する場合もある。
排水用硬質塩化ビニルライニング鋼管(DVA)
・汚水管、雑排水管として使われている。
・錆の発生を防ぐために、炭素鋼鋼管内面に耐食性に優れた硬質塩化ビニル管を内張り(ライニング)したもので、鋼管の強度と耐衝撃性、耐火性と塩化ビニル管の耐食性を兼ね備えている。
・薄肉の鋼管内面に塩化ビニル管を差し込んで密着させた配管で、外面は防錆塗装されている。
・薄肉の鋼管を使っているため軽量で、重さは鋳鉄管の1/3、鋼管の2/3であり、従来の鋳鉄管や亜鉛めっき鋼管に比べ軽量化されており、施工性にも優れている。
・防火区画貫通部で使用できる。
 
●継手:排水鋼管用可とう継手(MD継手、メカニカル接合)
・鋼管が薄く、ねじ込み式の継手が使用できないので、ボルトで締めるMD継手(Mechanical Drainage、メカニカル接合型、排水鋼管用可とう継手、MDジョイント)と呼ばれる継手や、MD継手の改良型が使用されている。
・接続方法は、薄肉の鋼管なのでねじ加工ができないため、管を差し込んで接続するMD継手などを使用する。
・配管の難点として、差し込み部分の管端部の防錆処理が十分でないと局部的に腐食が発生する場合がある。
排水用タールエポキシ塗装鋼管
・汚雑排水管として使われている。
・管内面をタールエポキシで塗装し、耐腐食性を持たせたもの。
・温排水による伸縮で継手の破断が発生する場合がある。
 
●継手
・継手はネジが切れるのでコーティングドレネジ継手(ねじ込み式排水管継手)や排水鋼管用可とう継手のMD継手(メカニカルジョイント)が用いられる。
鋳鉄管(CIP)
・古くから汚水系統に使用されている。
・一般的に腐食に強いと言われていて、汚水単独系統では耐久性が高く長持ちする。防音性に富み、区画の貫通も問題ない。
・汚水と雑排水を合流させている場合は、適切な定期清掃が特に重要となる。
→配管の洗浄を怠ったため、管内の堆積物から腐食性ガス(硫化水素など)が発生して、耐久性のある鋳鉄管が腐食したマンションもある。
・台所排水が合流する系統に使用されている場合は、鋼管と同程度に腐食してしまう。
 腐食傾向は、台所単独>台所合流>非台所雑排水>汚水単独となる。
 
●接続方法
・当初は鉛コーキングであったが、その後ゴムリング接合、排水鋼管用可とう継手(メカニカル接合)と進化してきている。
・接合部の劣化と鋳鉄の製造過程の巣穴が経年劣化により開き、漏水事故が起きるケースがある。
 
〇印ろう接合
・鋳鉄管の接合法の一種で、鉛コーキング接合ともいう。
・受口(ソケット)に差口(スピゴット)を差し込み、そのすきまにヤーン(麻)および紐を麻打ちたがねで受口の奥の方に十分打ち込む。
 次に溶鉛を流し込み、鉛が固化した後、たがねを用いてコーキングし水密を保つ方法。
 
●排水用特殊継手で、台所排水が合流する系統に鋳鉄管がある事例
・築30年なのにメカニカル型排水鋳鉄管の管上部に、典型的なバクテリア腐食による亀裂が走っていた(高圧洗浄は毎年実施していた)。
→鋳鉄は酸に弱いので、排水管高圧洗浄は欠かせない。台所排水が合流する系統に鋳鉄管を使用すると、年1回の高圧洗浄では足りないのかもしれない。管内面の表面素地は元より粗いので洗浄で取り切れないスケールが長年蓄積し、30年程度で「バクテリア腐食」により割れてしまった。
硬質ポリ塩化ビニル管(VP)
・腐食に強い。
・樹脂管のため防火区画の貫通処理が必要。
→区画貫通部(コンクリート躯体貫通部)については、管径や階数により前後1mを不燃材料(配管用炭素鋼鋼管等)を使用しなければならない場合があり、その部分で錆、腐食が発生し漏水が発生するケースもある。
・屋外配管、住戸内配管に広く使われている。
 
●継手:排水用硬質ポリ塩化ビニル管継手(接着接合、DV継手)
・接着剤(有機溶剤)で溶着接合するが、接着剤を使いすぎると気化した成分が塩化ビニル管を劣化させることもある。
・衝撃に弱いので、地盤沈下が見受けられたときには、損傷の有無を調べる必要がある。
 
●耐熱性
・紫外線による材質劣化と温排水による伸縮で継手部の抜けや継手部の破断が発生する場合がある。
 
〇熱伸縮対策
・温度による配管の伸び縮みが大きいので、伸縮の繰返しによって継手部が割れたり抜けることがある。
・硬質ポリ塩化ビニル管を使用する場合は、特に高温水が流れる場合だけでなく、通常の一般的な使用であっても温排水が流れる可能性のある系統では、耐熱塩化ビニル管(HTVP)および専用の継手を使用したうえで、局部に熱応力が集中しないように、差し込みソケット(伸縮吸収継手)を使用する等の熱伸縮対策が必要。
 
〇食器洗い乾燥機の排水管
・通常使用される硬質塩化ビニル管(VP管)の耐熱温度は60℃以下
→食器洗い乾燥機には高温の排水が流れるので、耐熱性硬質塩化ビニル管(HTVP)を使用する。これだと耐熱90℃程度まで可能。
耐火二層管、消音二層管
1)排水用耐火二層管(FDP)
 
・内張り管に硬質ポリ塩化ビニル管、外張り管に繊維モルタル製耐火管を被覆している配管材料。
・”トミジ管”若しくは、繊維補強モルタル二層管とも呼ばれ、防火区画の貫通処理が必要な場所で使用できる。
・耐火二層管は、繊維モルタルで被覆され、吸水性や吸湿性があり、鋼管や銅管・ステンレス管などの金属管・塩ビ管のような防露施工を必要としない。
・温排水による伸縮で継手部の抜けや継手部の破断が発生する場合がある。 ・水流音の遮音性や耐食・耐震などの特長を持つ。
 
●継手:排水用硬質ポリ塩化ビニル管継手(接着接合)
・排水用耐火二層管継手による接着結合となる。
 
2)消音二層管
 
・塩化ビニル管に消音被膜を施している。
・腐食に強い。
・樹脂管のため区画貫通処理が必要。
→耐火被覆消音二層管を使用する。
・継手:排水用硬質ポリ塩化ビニル管継手(メカニカル接合)
排水システムの種類、変遷
(1)排水システムの変遷
 
1)1960年(昭和35年)~
 
・3系統の通気管システムが使用されていた。
 
2)1970年(昭和45年)~
 
・3~2系統の伸頂通気方式。
・浴室系は、浴室がアスファルト防水(在来工法)で防水されているため、排水管は階下の天井部に配管されている。
・最下階住戸排水も立管に接続されている。
・1階床下横主管が土間配管の場合がある。
 
3)1980年(昭和55年)~
 
・85年以降、伸頂通気方式の特殊排水継手が開発された。継手と直管で構成される1本の排水管で通気機能を兼ねるもので、高層住宅で多く採用されている。
・浴室排水も80年代半ばよりユニットバス方式となり、排水管もスラブ上配管となり自階床下転がし配管となった。
・最下階住戸排水は単独配管で屋外第一枡まで配管されるようになり、1階床下横主管はピット内の架空部に配管されるようになった。
 
4)1990年(平成2年)~
 
・新築では排水ヘッダー方式も新たに出てきた。
 
(2)排水システムの種類
 
1)伸頂通気排水方式
 
・1985年以前の中層マンションに多く採用されている。
・中層~高層の建物で比較的排水負荷の少ない系統に適用される。
・雑排水(台所系、浴室洗面系)と汚水は別系統で排水され、排水管のみの伸頂通気排水方式で単管排水されている場合が多い。
・便器単独の汚水立管や、台所単独の立管系統に多く見られる。
 
2)通気立管排水方式
 
・1985年以前の高層マンションに多く採用されている。
・通気専用の立管を併設する。
・雑排水(台所系、浴室洗面系)と汚水は別系統で、排水管と通気管が併用されたループ通気立管排水方式で配管されている。
・複数の排水が合流される、負荷の多い系統に適用され、8階を超えるような高層になると中間階に結合通気管が設けられる。
 
3)特殊継手排水方式
 
・高層~超高層まで適用可能
・1980年代以降のマンションの主流の方式で、1985年以降の中高層マンションに多く採用されている。
・排水立管の管内壁周囲に排水を旋回流として流し、立管の芯を通気層として排水する方式。
・排水用特殊継手と専用脚部継手を一体として採用することで、性能を高めている。
・多方向からの雑排水(台所系、浴室洗面系)を枝管で合流させることなく立管に直接接続できるというメリットを有しており、リフォーム対応性の向上につながる。
※専有部横枝管では汚水と雑排水(台所系、浴室洗面系)は合流させないことが原則。
→専有枝管が合流配管となっていると、詰まった時に汚水が洗濯機パンなどに逆流する危険性がある。
・排水立管、通気管の本数を減らすことが可能となる。
 
●ソベント方式
・昭和50年代の、マンションが大量に建設された時代に、現場施工を簡略化するため普及した。
・過剰な排水負荷で建設されたマンションで排水不良となっている事例がある。
・現在では製造されておらず管内の劣化によって改修が行われている。

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