不法行為、使用者責任、工作物責任

〇民法:709~724条
〇過去問
・管理業務主任者 H13問5、H15問39、H17問6、H21問3、H22問5、H25問6、H26問6、H28問3、H29問2
・マンション管理士 H13問21、H14問6,7,16,28、H15問16,31、H17問17、H18問13,15、H19問16、H20問17、H21問12,15、H22問3,10,13,16,17、H23問14、H24問3,16、H25問2、H26問14、H27問14、H28問16、H29問3
 
 
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不法行為、損害賠償、責任能力
 
1)不法行為とは?
 
・他人の権利・利益を違法に侵害したことによって損害を与える行為をいう。
・”故意又は過失”によって他人に損害を与えた者は、”その損害を賠償”する責任を負う。
・当事者間の契約関係の有無に関わらず、加害者は被害者に損害を賠償する責任を負い、被害者は加害者に賠償を請求する債権を得る。
・財産上のみならず、精神上の損害(慰謝料)も賠償の対象となる。
 
〇不法行為が成立するには
・原則として、以下の要件を満たさなければならない。
①加害者の故意または過失に基づく行為であること(工作物責任の場合は無過失責任)
②他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
③現に損害が発生し、その損害の発生と行為との間に因果関係があること
④加害者に責任能力があること
・上記①~③の立証責任は、損害賠償を請求する者が負う。
 
2)損害賠償
 
・賠償は、原則として金銭によって行う。
・損害賠償の範囲は、債務不履行の場合と同様、”通常生ずべき損害”の範囲が原則。
・不法行為の場合、瑕疵修補を請求することはできない。
・損害賠償請求権は金銭の請求権なので、当然相続される。
※被害者が即死の場合も、相続できる(判例)。
・不法行為に基づく損害賠償請求は、胎児も請求できる。
 
〇弁護士費用
・不法行為の被害者が、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり、請求することができる。(最判昭44.2.27)
 
〇正当防衛と緊急避難
・他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利・利益を防衛するためやむを得ず加害行為をした場合(正当防衛)や、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合(緊急避難)は、損害賠償責任は生じない。
 
●損害賠償の時効(724条)
・以下のように、時効によって消滅する。
①被害者又はその法定代理人が損害及び加害者の両方を知った時から3年間行使しないとき。
②人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求については、5年間行使しないとき。
③不法行為の時から20年間行使しないとき。
 
〇遅延損害金の始点
・不法行為による損害賠償請求権は、期限の定めのない債務であるが、”損害発生の時”から直ちに履行遅滞に陥り、遅延損害金が発生する(判例)。
 
●過失相殺(722条)
・不法行為による損害賠償請求において、被害者側に過失があり、それにより被害が大きくなったときには、裁判所は、損害賠償の額を定めるにあたり、被害者側の過失を考慮することができる
 
●不法行為と債務不履行の相違
・債務不履行は契約を前提。
 
3)責任能力
 
●未成年者(712条)
・未成年者の中でも”自己の行為の責任を弁識するに足りる知能”を備えていなかった場合(小学校を卒業する12歳程度が目安)のみ、損害賠償の責任を負わない。
 
●精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態(713条)
・行為時の精神的障害の状態により個別に判断されるもので、成年後見制度とは無関係。
・飲酒等により一時的に精神的な障害に陥った者も、不法行為責任を負わないのが原則だが、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、不法行為責任を負うとしている。
 
●責任無能力者の監督義務者等の責任(714条)
①責任無能力者が責任能力以外の不法行為の要件を備えている場合、責任無能力者に代わって、これを監督すべき法定の義務がある者(監督義務者)が責任を負うが、監督義務者がこれを怠らなかったことを立証すれば、責任を免れる。
→責任無能力者の加害行為があった場合に、監督義務者は自己に過失がなかったことを証明しなければ免責されない。
 
②監督義務者に代わって責任無能力者を監督する義務のある者(代理監督者)にも、監督義務者と同様の責任がある。
・代理監督者の例は、託児所・幼稚園の保母、小学校の教員、精神病院の医師、少年院の職員など。
 
4)共同不法行為の責任(719条)
 
・数人が不法行為を共同して行った場合には、被害者の救済を厚くするため、その責任を連帯債務とした。
・加害者の各自が”連帯”してその損害を賠償する責任を負う。
・被害者は、加害者の全員に全額の賠償が請求できる。それぞれの加害者がどれくらいの割合で損失を負担するかは、加害者同士で決めること。
・教唆者や幇助者も同一の責任がある。
例)売主から媒介の依頼を受けた宅建業者と、買主から媒介の依頼を受けた宅建業者が、共同して媒介して契約を成立させ、その結果、依頼者に損害を与えた場合など。
名誉棄損
●名誉棄損(709、710条)
 
・他人の身体、自由、財産権だけでなく、名誉を侵害した場合にも不法行為が成立する。
・この名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させることであるが、公表されたことが、以下のことであると証明された場合は成立しない。
①公共の利害に関する事実に係り(事実の公共性)、
②その目的が専ら公益を図ることにあったと認められ(目的の公益性)、
③真実であること(事実の真実性)の証明があったとき。
使用者責任
●使用者等の責任(715条)
・ある事業のために他人を使用する者は、被用者(他人に使用される者)がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合は、原則として使用者責任を負う。
・使用者が責任を負うのは、被用者の行為が”事業の執行について”第三者に損害を与えた場合に限る。
・使用者責任については、使用者に代わって事業を監督する者も、使用者と同様の責任を負う。
・再委託契約の場合、指揮監督の関係(指揮監督すべき実質的関係)が認められれば、使用者責任を負わなければならない。
 
〇使用者の免責
・”使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき”には使用者責任は生じない。
 
〇”事業の執行”
・必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、被用者の行為の外形を捉えて判断される(外形標準説)。したがって、実際には職務権限外の行為であっても、外形上職務に含まれる場合、使用者責任が生じる。
・判例には、会社の被用者が私用のため会社の自動車を運転中他人に加えた損害が”事業の執行について生じたもの”とされたものもありる(最判昭39.2.4)。
・被害者が、被用者の行為が職務権限外であることを知り、または重大な過失によって知ることができなかったときは、使用者責任は成立しない(判例)。  
○求償権
・使用者が被害者に損害賠償をした場合、使用者は、加害行為を行った被用者に対して、その損害を求償することができる。
・使用者が被害者に全額賠償した場合は、使用者は”信義則上相当な範囲”で被用者に求償することができる。被用者の不法行為だからといって、使用者は賠償した全額を求償できるわけではない。
 
●注文者の責任(716条)
・請負人の行為については、原則として、注文者は責任を負わない。
ただし、注文または指図に過失があるときには、責任を負うことになる。
・本条の注文者の責任は、建築”工事中”の事故などについての規定
※建物が完成した後の所有者又は占有者には工作物責任がある。
 
●動物の占有者等の責任(718条)
・動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
・占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
 
〇立証責任
・一般不法行為においては、過失の立証責任は被害者側にあるが、本条においては、”動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をした”ことの立証責任は、動物占有者側にある。
 
〇”他人に加えた損害”
・直接人体に加えた損害(人を噛むなど)だけではなく、他人の所有物に加えた損害(物を壊す)も含まれるし、生活妨害(騒音や臭気)も含まれる。
工作物責任
●工作物責任(717条)
・土地の工作物の設置または保存の瑕疵により他人に損害を与えた場合の責任。
 
①占有者の第一次的責任(過失責任)
・まずは、占有者が責任を負う。
・ただし、占有者が損害発生を防止するのに必要な注意をしたことが認められたときは、占有者は責任を免れる。
②所有者の第二次的責任(無過失責任)
・次に、所有者が責任を負う。
・過失のいかんを問わず責任を負う。
③損害の原因について責任がある第三者(請負人など)が存在
・その者に求償することができる。
・一般不法行為責任なので、故意・過失の立証責任が被害者側にある。
 
●立証責任
〇一般的な不法行為による損害賠償請求についての立証責任
・請求をする被害者
〇工作物の所有者の責任
・無過失責任であり、通常の損害賠償請求とは異なり、加害者の”過失”の点については、被害者に立証責任はない。
・”工作物の設置又は保存の瑕疵”によるものであることは、被害者が立証しなければならない。

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