抵当権

〇民法:369~398条の22
〇過去問
・管理業務主任者 H15問3,5、H17問3、H18問4、H20問6
・マンション管理士 H13問15、H14問13、H16問15、H18問3,5,12、H25問13、H29問16
 
 
※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
抵当権の概要
1)抵当権の性質
 
・抵当権は、担保物権の一種で、一般的に担保物権が有している性質をすべて有している。
 
○付従性
・債権が消滅すれば抵当権も消滅する
○随伴性
・債権が移転すれば抵当権も移転する
※被担保債権(貸金債権)が譲渡されると、抵当権も移転するが、これについて抵当権設定者(借主)の承諾は不要。
○不可分性
・債権の全額の弁済を受けるまで、その担保となる物の全部のうえに抵当権が存続する
○物上代位性
・目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって抵当不動産の所有者が受けるべき金銭その他の物に対しても、権利を行使することが出来る。
・金銭等が抵当権設定者に払い渡される前に、抵当権者自ら、その請求権を差し押さえることが必要。
例)マンション一室の一部が火災により損傷し、区分所有者が火災保険金を受け取ることができる場合、銀行は当該火災保険金請求権を”差し押さえて”これを行使することができる。(銀行は火災保険金が支払われる前に差押えをする必要があり、すでに”支払われた” ※転貸料債権には認められない。
・賃借人は抵当権設定者(賃貸人)とは立場が異なり、転貸料は賃借人(転貸人)の債権であり、その債権を他人の債務(被担保債権)の弁済に供されることはない。
 
2)抵当権の侵害に対する救済
 
●侵害に対する妨害排除請求
・抵当目的物の価値を低下させる行為がある場合は、抵当権の侵害として、抵当権者は、抵当権に基づき、その行為の排除や停止を請求することができる。
・妨害排除請求は、被担保債権の弁済期が到来する前でも可能(判例)。
 
●損害賠償請求
・抵当権の侵害によって損害が生じたときは、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生する。
・請求時期については、少なくとも弁済期以降でなければ、損害賠償の請求はできない(判例)。
抵当権の成立、実行
1)抵当権の成立(369条)
 
●抵当権設定契約
 
・抵当権は、抵当権設定契約により、不動産に設定する。
・同じ債権の担保のために、複数の不動産に抵当権を設定することもできる(共同抵当)
 
○抵当権者:債権者
○抵当権設定者
・債務者。
・第三者(物上保証人)
※債務者の親が自分の土地に抵当権を設定して子が融資を受けるなど。
・抵当権設定者は担保に供した目的物を抵当権者の承諾を得ることなく、自由に使用、収益、処分することができる。
〇目的物
・不動産(土地、建物)、地上権、永小作権
・不動産の貸借権などは、たとえ登記がされていたとしてもNG
〇対抗要件
・登記(元本の額を登記。利息等も登記できる)
 
2)抵当権の実行
 
・弁済期が来ても債務が弁済されない場合は、抵当権者は、抵当不動産を売却・換価・賃貸等して、その代金・賃料等から、他の債権者に優先して弁済を受けることができる。
 
①契約による実行
・当事者の契約によって任意の方法で換価する。
・任意売却、抵当直流しなど。
〇抵当直流し
・債務者が期限までに弁済をしない場合に、不動産競売手続によらず、目的物の所有権を直ちに抵当権者に移転させる旨の特約は有効。
・抵当権の登記には、”抵当直流し”の特約を登記する方法がないので、これを第三者に公示するためには仮登記を使う。
 債務が履行されない場合に備えて債務者所有の不動産を債権者に移転させること、すなわち代物弁済又は売買をあらかじめ予約し、債権者のその権利を仮登記によって保全することになる。このような制度を仮登記担保制度といい、”仮登記担保契約に関する法律”が詳細を定めている。
 
②競売
・裁判所の手続きに従って売却する。
・弁済期前は、原則として、競売の申し立てをすることはできない。
・原則として誰でも買受人となれるが、債務者は買受人となれない。
 
③不動産収益執行
・裁判所によって管理人が選任され、管理人が抵当不動産を賃貸・管理して、そこから生じる収益を、被担保債権の弁済にあてる。
・抵当権設定者は、不動産から生じる収益を処分することができなくなる。
 
3)共同抵当(392条)
 
・同じ債権の担保のため、複数の不動産の上に抵当権を設定すること。
 
●共同抵当の実行
・抵当権者は、複数の不動産の抵当権のうち、いずれの抵当権から実行するかを、任意に選択できる。同時実行も可能。
 
●後順位の抵当権者への配当
〇同時実行の場合の配当(同時配当)
・各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分し、1番抵当権者が優先弁済を受け、その残額を後順位抵当権者に配当する。
 
〇いずれかの抵当権のみ実行した場合の配当(異時配当)
・ある不動産の代価のみを配当すべきときは、1番抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が同時配当の場合の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
抵当権の効力の及ぶ範囲、優先弁済の範囲
1)抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲(370条)
 
●抵当権の効力が及ぶもの(付加一体物)
 
〇不動産の構成部分
・増築部分、雨戸など。
〇抵当権設定時に存在する従物
・従物とは、主物(土地・建物自体)とは独立しているものの、主物の処分に従うことが互いの経済的効用を高める働きをするものをいう。
・母屋と独立した物置、庭石、建物に対する畳、建具等
〇従たる権利
・建物に抵当権があるときの借地権
・マンションの専有部分に抵当権がある場合の共有部分の共有持分や敷地利用権
 
※抵当権は、抵当不動産に付加して一体となっている物や抵当権設定時の従物には及ぶが、専有部分内に備え付けられていた家具や家電製品などの独立の動産には及ばない。
 
●抵当権の効力が及ばないもの
 
①土地と建物
・どちらかに設定した場合は他方に及ばない。
 
②果実(371条)
・果実とは、抵当権が設定された不動産から生まれ出る産物のことをいう。
・果実には、抵当権の効力が及ばないのが原則。
ただし、被担保債権について債務不履行があった後は、その後に生じた果実には、抵当権の効力が及ぶ。
〇法定果実
・地代、賃料など物の使用の対価として受ける利益
・別途、個別的な差押えにより、抵当権の効力を及ぼすこともできる(物上代位)。
〇天然果実
・土地から採れる米や野菜等、物から自然に産み出される経済的収益。
 
2)優先弁済の範囲(375条)
 
・抵当権を実行した場合、その売買代金から優先弁済を受けるが、その範囲は元本と最後の2年分の利息、定期金(家賃、地代など)に限る。
・後順位の債権者が存在しない場合は、最後の2年分の利息等に制限されることはない。
抵当権の順位、抵当権の処分
1)抵当権の順位(373条)
 
・登記の前後による。
・弁済などにより先順位の権利が消滅すると、後順位の権利は自動的に順位が上昇する。
 
2)抵当権の順位の変更(374条)
 
・抵当権者全員の合意、理解関係人の承諾が必要で、登記をしなければ効力を生じない。
・債務者や抵当権設定者の合意は不要。
 
3)抵当権の処分(376条)
 
・抵当権には随伴性あり、被担保債権(貸金債権)を移転させれば抵当権も移転。
→抵当権を処分するには、常に被担保債権を譲渡しなければならないというのは不便
→被担保債権と切り離して抵当権自体を処分することを認めるのが、”抵当権の処分”。
 
①転抵当
・抵当権を他の債権の担保とすること。
 
②抵当権の譲渡、抵当権の放棄
・同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権を譲渡し、若しくは放棄すること。
・譲渡・放棄を受ける者は、無担保債権者でないといけない。
・抵当権の譲渡は、当事者同士の合意でなされ、債務者や物上保証人の同意は不要。
・抵当権の譲渡:受益者が抵当権者より優位となる。
・抵当権の放棄:抵当権者と受益者が同位になる
 
③抵当権の順位の譲渡・放棄
・抵当権の譲渡・放棄が、同一の債務者に対する無担保債権者に対してなされるのに対して、抵当権の順位の譲渡・放棄は、同一の債務者に対する後順位抵当権者に対してなされる。
 
〇抵当権処分の付記登記
・抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
 
●抵当権の処分の対抗要件(377条) ※債権譲渡の対抗要件 467条
・主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
・主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
賃貸借の保護
1)抵当権と賃貸借の優劣
 
・抵当権設定登記後の賃貸借は、その抵当権に劣後する。
※抵当不動産を賃借人は、抵当権より先に賃借権が設定されていれば、抵当権に優先するので保護されるが、抵当権設定後に賃借権が設定された場合は、保護されない。
→抵当権が実行(競売)されると、賃借権は消滅し、原則として、賃借人は立ち退かなければならない。
 
〇競売と敷金返還義務
・抵当権が優先するという意味は、銀行は賃借権の負担のない建物に抵当権を設定したということになり、賃借権の負担のない建物として競売することができ、競落人は賃借権の負担のない建物を取得する。
→競落人が買い受けた段階で、賃貸借自体は終了している。
→新しい貸主は敷金返還義務を負わない。
 
・賃貸借契約を締結し引渡しを受けた後に設定登記がなされた抵当権
→競落人である新たな所有者は賃貸借契約を承継するため、新しい貸主である新所有者に対して敷金の返還を求めることが出来る
 
2)賃貸借に対抗力を付与する制度(387条)
 
・登記した賃貸借について、その登記前に、登記した全抵当権者が同意し、かつ、その同意の登記があるときは、賃貸借が抵当権者に対抗できる。
・利害関係人がいる場合、その承諾も必要。
 
3)抵当建物使用者の引渡しの猶予(395条)
 
・抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって、競売手続の開始前から使用又は収益をする者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
→競売によって賃貸借は終了するが、6カ月間引き渡しが猶予される。引渡しまでの間、建物使用の対価(賃料相当額)は支払う必要がある。
※この制度の対象は”抵当建物”であって、土地は対象外。
建物を保護するための制度
1)法定地上権(388条)
 
・同一の所有者であった土地と建物が、抵当権が実行された結果、別々の所有者になった場合、建物はその土地に対する利用権を失うことになり、建物を取り壊さなければならなくなる。
→以下の3つの要件を満たせば、その建物の利用権として法定地上権が成立する。
①一番抵当権設定時に、”土地”と”建物”が存在し、”同一所有者”であること
②土地と建物の”どちらか一方”もしくは”双方”に抵当権が設定された
③抵当権の実行(競売)により、土地と建物の所有者が”異なった”
 
2)一括競売(389条)
 
・更地に抵当権が設定され、その後、この更地に建物が築造された場合
→法定地上権は成立しない。
→抵当権を設定した土地だけでなく、抵当権が設定されていない建物も一緒に競売(一括競売)にかけ、同じ人が両方を一緒に買い受けられるようにする。
・優先的に弁済を受けられるのは、抵当権を設定した土地の代金からだけ。
抵当権の消滅
1)消滅時効による消滅(396条)
 
①債務者及び抵当権設定者に対して
・抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
 
②第三取得者など債務者及び抵当権設定者以外の者に対して
・抵当権も時効制度の原則どおり、20年間権利を行使しないと消滅する。
 
2)抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅(397条)
 
・債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
 
3)抵当不動産の買主による抵当権消滅の方法
 
①第三者弁済(474条)
・第三者弁済が成立すれば債務が消滅し、抵当権も消滅する。
 
②代価弁済(378条)
・抵当不動産について所有権または地上権を買い受けた者が、”抵当権者の請求”に応じて売買代価を支払ったとき、抵当権が消滅する。
・代金額が、被担保債権額に満たない場合でも、抵当権は消滅する。
 
③抵当権消滅請求(379条~)
・第三取得者が、登記した各債権者に対し、自分が適当を思う金額(その不動産の買受額とは限らない)を提供して、抵当権を消滅させて欲しいと要求する制度。
・登記した全債権者が承諾し、その代価が払い渡された、または供託されたとき、抵当権は消滅する。
・債務者、保証人などには、抵当権消滅請求は認められない。
〇抵当権消滅請求を行う時期
・抵当権実行としての競売の差押えの効力が発生する前まで。
・書面の送付を受けた者が、2ヶ月以内に抵当権を実行して競売の申し立てをしない場合は、その債権者は、第三取得者が提供した金額を承諾したものとみなされる。
〇代金支払の拒絶(577条)
・買い受けた不動産について、契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続きが終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。
根抵当権(398条の2~)
1)根抵当権とは
 
・継続的取引契約によって生じる債権などのように、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額という限度額まで担保する抵当権。
・包括根抵当(債権者と債務者との間に生ずるすべての債権を担保するという根抵当権)は認められていない。
 
〇付従性・随伴性の緩和
・現在発生していない債権を被担保債権として根抵当権を設定できる。
・現在根抵当権で担保されている債権が弁済等により消滅しても、根抵当権は消滅しない。
・元本確定前の根抵当権は、被担保債権に対して随伴性がない。
 
2)極度額
 
・根抵当権は、極度額まで元本、利息や違約金等全部を担保する。
・普通抵当権のように、”利息等について最後の2年分のみ”といった制限はない。
 
〇極度額の変更
・当事者の合意により、利害関係人(極度額を大きくする場合は後順位抵当権者、小さくする場合は転抵当権者など)の承諾を得て、変更できる。
 
〇極度額の減額請求(398条の21)
・元本の確定後において、根抵当権設定者は、極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。
 
3)元本の確定
 
・根抵当権を実行するにあたっては、元本を確定しなければならない。
 
〇確定請求
・元本の確定期日が定められていない場合、当事者は元本の確定を請求することができる。
イ)根抵当権設定者からの確定請求
・根抵当権設定より3年間経過時以後、可能。
・元本は、請求時より2週間後に確定。
ロ)根抵当権者からの確定請求
・いつでも可能。
・元本はその請求時に確定。
 
4)根抵当権の変更
 
〇被担保債権の範囲、債務者、確定期日の変更
・元本の確定前であれば変更可能。利害関係人の承諾は不要。
・登記によって効力が生じる。
 
〇極度額の変更
・元本の確定後でも変更可能。ただし、利害関係人の承諾が必要。
・登記によって効力が生じる。

コメントを残す

Your email address will not be published.

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください