マンションの耐震診断の概要

〇過去問
・管理業務主任者 
・マンション管理士 
 
 
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耐震性、地震被害
1)耐震性が懸念されるマンション
 
●旧耐震基準の鉄筋コンクリート造マンション
・特に、鉄筋コンクリート造柱の帯筋(フープ)間隔の規定が強化された昭和46年以前に建設されたものは注意が必要。
 
●構造上のバランスが悪いマンション
・平面形状や断面形状が不整形。L字型、コの字型、雁行型、セットバックなど。
・大きな吹抜があったり、上層部と下層部で構造形式が異なる場合
・細長い形状(辺長比が大きい)。
・1階が駐車場や店舗のようなピロティ形式の場合
・上下階で柱や壁の位置が大きくずれている場合、耐力壁がバランスよく配置されていない場合、壁のない独立した柱が多い建築物。
 
2)壁式のマンションの耐震性
 
●壁式構造とラーメン構造
〇ラーメン構造
・柱と梁で構造を支える。
・RC造やSRC造の低層から高層まで広く用いられる。
〇壁式構造
・平面的な壁面と床板で構造を支え、柱がない。
・RC造の5階建て以下の中低層に多い。
・壁式鉄筋コンクリート造(WRC造)や壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造(WPC造)の種類がある。
 
●壁式構造の耐震性
・壁量が多いため旧耐震基準のマンションでも一般に耐震性は高く、過去の大地震でも大きな被害を受けたものはほとんどない。
・兵庫県南部地震(1995年阪神・淡路大震災)における被害のほとんどは、PC版接合部のひび割れ、水平接合部のカバーコンクリートの剥落、壁板のひび割れ等の軽微な被害であり、被害ランクとしては小破にとどまっていた。
 また、非常に少数ながら大破となった建物は、地盤の法面の崩壊、液状化現象による地盤沈下、基礎地盤の崩壊に伴う上部構造の被害など地盤を含む下部構造の特別な脆弱さに起因する場合に限定されている。
 
3)構造躯体以外で被害が生じやすい箇所
 
●避難経路関連
・ドア周りの非構造壁の破壊
・エキスパンション・ジョイントの衝突
・屋外鉄骨階段の倒壊
・エレベーター内への人間の閉じこめ
・外壁・内壁の仕上げ材の損傷・落下
・窓ガラスの損傷・落下
 
●設備関係
・給水装置(高置水槽・受水槽等)の転倒・移動および配管の損傷・破断
・電気設備を埋め込んだ帳壁の破損による配管の露出・損傷
・空調室外機の脱落
・貯湯式給湯器の転倒および配管の破断
耐震診断の概要
●目的
・旧耐震基準により建設された建物が大きな地震が来たとき被害が生じるか否かを判断するには、耐震診断を行う必要がある。
・耐震診断とは、現地調査と建物図面に基づき構造性能を求め、その結果の構造性能と大地震時に必要な耐震性能(目標性能)を比較して耐震改修の要否を判定すること。
 
●耐震性能
・建物の耐震性能とは、地震のエネルギーを吸収できる能力のこと。
・建物の強さと粘りに、建物形状と経年状況を考慮して決まる。
 
〇建物の強さ
・地震力に耐えられる頑丈さ
〇建物の粘り
・柳のように地震力を受け流せるしなやかさ。
〇建物形状
・建物の平面形状や断面形状のバランス
〇経年状況
・建物の老朽化の度合い
 
●具体的な耐震診断の方法
・1次診断(簡易な方法)から3次診断(高度な精密診断)まであるが、建物の構造形式、現地調査などをもとに構造設計者の高度な判断によって診断次数を決定する必要がある。
 
●耐震診断の流れ
①予備調査
・耐震診断レベルを設定するために必要な情報を集める。
・設計図書や計算書、増改築の履歴等。
②現地調査
・現地で構造躯体や非構造部材・設備機器等の現況を調査。
・コンクリートや鉄筋を採取するコア抜き調査では騒音が発生するので、居住者への事前説明が必要。
③耐震診断
・予備調査や現地調査の情報をもとに、建物の耐震性能を評価する。
・Is値が0.6未満の場合には、対策が必要。
耐震診断の方法
・耐震診断の方法は耐震改修促進法4条1項に基づき、国土交通大臣が定めた”建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針”(平成18年国土交通省告示184号)に耐震診断の指針として、耐震診断の方法が示されている。
・実際に耐震診断を行うための実務的方法として、指針と同等以上の効力を有すると国土交通大臣が認めた方法がある。
 
●主にマンションで活用可能な耐震診断基準
〇鉄筋コンクリート造
・2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説((財)日本建築防災協会)
〇鉄骨鉄筋コンクリート造
・改訂版 既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説((財)日本建築防災協会)
〇鉄骨造
・耐震改修促進法のための既存鉄骨造建築物の耐震診断基準・同解説((財)日本建築防災協会)
〇壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造・壁式鉄筋コンクリート造
・既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断指針((財)日本建築防災協会)
・既存壁式鉄筋コンクリート造等の建築物の簡易耐震診断法((財)日本建築防災協会)
耐震診断レベル
●診断レベルの選定
 
・第1次診断法は極めて簡易な診断法であるため、耐震性能があると判定するための構造耐震判定指標IS0の値が、第2次診断法・第3次診断法よりも高く設定されている。
・壁式構造を除き、第1次診断法で耐震性能があると評価される例は少なく、第2次診断法または第3次診断法により耐震性能の評価を行うことが一般的。
 
1)第1次診断法
 
・壁の多い中・低層の建築物に適用される。
・比較的耐震壁が多く配された建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法。
・対象建物の柱・壁の断面積から構造耐震指標を評価する。
・第1次診断法で不可の場合でも、第2次診断を行うと可となることがある。
 
〇計算に必要な項目
・床面積、階数、階高、柱断面寸法、柱内法長さ、壁断面寸法、腰壁・垂れ壁寸法
 
2)第2次診断法
 
・中・高層の一般建築物に適用される標準的な診断法方法。
・梁よりも、柱、壁などの鉛直部材の破壊が先行する建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法。
・対象建物の柱・壁の断面積に加え、鉄筋の影響も考慮し、構造耐震指標を評価するもの。
・第1次診断法よりも計算精度の改善を図っており、一般的な建物の構造特性に適した、最も適用性の高い診断法。
・第2次診断法で不可の場合でも、第3次診断を行うと可となることがある。
 
〇計算に必要な項目
・第1次診断法の項目
・壁開口部寸法、柱配筋、壁配筋、コンクリート強度、柱鉄筋強度
 
3)第3次診断法
 
・壁の少ない高層建築物や第2次診断で不可とされた建築物に適用される最も精度の高い詳細診断方法。
・柱、壁よりも、梁の破壊や壁の回転による建物の崩壊が想定される建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法。
・対象建物の柱・壁(断面積・鉄筋)に加えて、梁の影響を考慮し、構造耐震指標を評価する。
・第3次診断法は、計算量が最も多く、解析においてモデル化の良否の影響を大きく受けるため、高度な知識と慎重な判断を要する診断法。
 
〇計算に必要な項目
・第2次診断法の項目
・梁断面寸法、梁スパン、梁配筋、柱・梁鉄筋強度
現地調査と診断レベル
●現地調査の目的
・マンションの現況を把握し、設計図書との整合性を確認する。
・マンションの劣化状況等の診断計算に必要な調査項目を確認する。
 
●現地調査のレベル
①1次調査
・主に第1次診断法で必要となる調査。
②2次調査
・主に第2次診断法・第3次診断法で必要となる調査。
③精密調査
・より精度が求められる場合に行う調査。
 
●主な調査項目
 
①使用状況や建物環境の調査
〇調査目的
・現状建物の使用状況の把握
・用途変更や改造の有無を確認
〇調査方法
・目視による(一次・二次調査で必須)
 
②基礎・地盤の調査
〇調査目的
・建物の傾斜や地形・地盤の把握
〇調査方法
・目視による(一次・二次調査で必須)
 
③劣化状況調査
〇調査目的
・仕上げ材の劣化状況を把握
・補強以外に補修の必要箇所や落下危険物の有無を把握
〇調査方法
・目視による劣化状況の確認(一次・二次調査で必須)
 
④躯体ひび割れ状況調査
〇調査目的
・建物の劣化状況を把握
〇調査方法
・目視によるひび割れ発生状況の確認(一次・二次調査で必須)
・ひび割れ幅の測定による(二次調査で必須)
 
⑤部材調査
〇調査目的
・原設計図書と現状建物の整合性の確認
〇調査方法
・部材寸法の実測による(一次・二次調査で必須)
・鉄筋探査による配筋の確認(二次・精密調査で必要に応じて実施)
・仕上げ材除去・ハツリ(二次・精密調査で必要に応じて実施)
 
⑥コンクリート強度試験
〇調査目的
・診断計算に用いるコンクリート強度の把握
〇調査方法
・コンクリートコア採取および圧縮強度試験による(二次調査で必須、一次・精密調査で必要に応じて実施)
 
⑦コンクリート中性化深さ試験
〇調査目的
・老朽化の程度の把握
〇調査方法
・コンクリートコアの中性化深さ試験による(二次調査で必須、精密調査で必要に応じて実施)

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