マンション外壁の仕上塗材と石綿

石綿が含有している仕上塗材の種類、試料採取時の留意点についてまとめました。
※国立研究開発法人建築研究所、日本建築仕上材工業会「建築物の改修・解体時における石綿含有建築用仕上塗材からの石綿粉じん飛散防止処理技術指針」平成28年4月28日
※厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課、環境省水・大気環境局大気環境課「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」令和3年3月
 
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建築用仕上塗材と石綿の含有状況
〇石綿の役割
・建築用仕上塗材は、数ミリ単位の仕上げ厚さを形成する塗装材料又は左官材料で、吹付け、こて塗り、ローラー塗りなどの施工方法によって、立体的な造形性を持つ模様に仕上げられることから、塗膜のひび割れや施工時のダレを防止するために、主材の中に石綿がが少量意図的に添加材として使用されていた時期がある。
 
〇通常時の石綿飛散性
・石綿含有仕上塗材の主材中に含まれる石綿繊維は合成樹脂やセメントなどの結合材によって固められており、仕上塗材自体は塗膜が健全な状態では石綿が発散するおそれはない。
 
〇除去時の飛散性
・破断せずに除去することが困難であるため、除去方法によっては含有する石綿が飛散するおそれがある。
・一方で、石綿含有仕上塗材の除去は、石綿の飛散レベルが著しく高い吹付け石綿や石綿含有耐火被覆材等の除去と比較すると、建材自体の発じん性、石綿の含有量、除去工法などが異なる。
・剥離剤を使用した除去等、石綿を飛散させない適切な工法、養生などの措置を選択することにより、石綿の飛散を防止できる。
石綿含有仕上塗材の種類
1)薄塗材C(セメントリシン)
・販売期間(1981~1988年)、石綿含有量0.4%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
〇内装用
・化粧用セメント吹付材3種(1970年)→砂壁状吹付材C 上吹材・下吹材(1977年)→内装薄塗材C(1984年)
〇外装用
・化粧用セメント吹付材1,2種(1970年)→砂壁状吹付材C 上吹材・下吹材(1977年)→外装薄塗材C(1984年)→2003年JIS A 6909改正により削除
 
2)薄塗材E(樹脂リシン)
・販売期間(1979~1987年)、石綿含有量0.1~0.9%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
・アクリルリシン、陶石リシン
・合成樹脂エマルション砂壁状吹付材外装用A類・B類(1972年)→外装薄塗材E(1984年)
 
3)外装薄塗材S(溶剤リシン)
・販売期間(1976~1988年)、石綿含有量0.9%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
・外装薄塗材S(1984年)
 
4)可とう形外装薄塗材E(弾性リシン)
・販売期間(1973~1993年)、石綿含有量1.5%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
・可とう形外装薄塗材E(1995年)
 
5)防水形外装薄塗材E(単層弾性)
・販売期間(1979~1988年)、石綿含有量0.1~0.2%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
・複層塗材伸長形(1984年)→防水形複層塗材(1988年)→防水形外装薄塗材E(1995年)
 
6)内装薄塗材Si(シリカリシン)
・販売期間(1978~1987年)、石綿含有量0.1%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
・内装薄塗材Si(1984年)
 
7)内装薄塗材E(じゅらく)
・販売期間(1972~1988年)、石綿含有量0.2~0.9%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
・合成樹脂エマルション砂壁状吹付材内装用A類・B類(1972年)→合成樹脂エマルション砂壁状吹付材内装用A類・B類(1975年)→内装薄塗材E(1984年)
 
8)内装薄塗材W(京壁・じゅらく)
・販売期間(1970~1987年)、石綿含有量0.4~0.9%
・層構成:塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:3mm程度以下
 
●呼び名の変遷
・繊維壁
・繊維質上塗材1種・2種・3種・4種(1970年)→繊維質上塗材一般用・特殊用(難燃性、耐湿性、耐アルカリ性)(1975年)→内装薄塗材W(1984年)
 
9)複層塗材C(セメント系吹付けタイル)
・販売期間(1970~1985年)、石綿含有量0.2%
・層構成:下塗材+主材+上塗材
・塗り厚:3~5mm程度
 
●呼び名の変遷
・複層吹付材C(1975年)→複層塗材C(1984年)→内装薄塗材W(1984年)→2003年JIS A 6909改正により削除
 
10)複層塗材CE(セメント系吹付けタイル)
・販売期間(1973~1999年)、石綿含有量0.1~0.5%
・層構成:下塗材+主材+上塗材
・塗り厚:3~5mm程度
 
●呼び名の変遷
・複層塗材CE(1984年)
 
11)複層塗材E(アクリル系吹付けタイル)
・販売期間(1970~1999年)、石綿含有量0.1~5%
・層構成:下塗材+主材+上塗材
・塗り厚:3~5mm程度
 
●呼び名の変遷
・複層吹付材E(1975年)→複層塗材E(1984年)
 
12)複層塗材Si(シリカ系吹付けタイル)
・販売期間(1975~1999年)、石綿含有量0.1~1%
・層構成:下塗材+主材+上塗材
・塗り厚:3~5mm程度
 
●呼び名の変遷
・複層塗材Si(1984年)
 
13)複層塗材RE(水系エポキシタイル)
・販売期間(1970~1999年)、石綿含有量0.1~3%
・層構成:下塗材+主材+上塗材
・塗り厚:3~5mm程度
 
●呼び名の変遷
・複層吹付材RE(1975年)→複層塗材RE(1984年)
 
14)複層塗材RS(溶剤系エポキシタイル)
・販売期間(1976~1988年)、石綿含有量0.1~3.2%
・層構成:下塗材+主材+上塗材
・塗り厚:3~5mm程度
 
●呼び名の変遷
・複層吹付材RS(1975年)→複層塗材RS(1984年)
 
15)防水形複層塗材E(複層弾性)
・販売期間(1974~1996年)、石綿含有量0.1~4.6%
・層構成:下塗材+主材+上塗材
・塗り厚:3~5mm程度
 
●呼び名の変遷
・ダンセイタイル
・複層塗材伸長形(1984年)→防水形複層塗材(1988年)→防水形複層塗材E(1995年)
 
16)厚塗材C(セメントスタッコ)
・販売期間(1975~1999年)、石綿含有量0.1~3.2%
・層構成:下塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:4~10mm程度
 
●呼び名の変遷
・セメント厚付け吹付材(1979年)→外装or内装厚塗材C(1984年)
 
17)厚塗材E(樹脂スタッコ)
・販売期間(1975~1988年)、石綿含有量0.4%
・層構成:下塗材+主材or主材だけ
・塗り厚:4~10mm程度
 
●呼び名の変遷
・アクリルスタッコ
・外装or内装厚塗材E(1984年)
 
18)軽量塗材(吹付けパーライト)
・販売期間(1965~1992年)、石綿含有量0.4~24.4%
・吹付けパーライト及び吹付けバーミキュライトと通称されるもので、屋内の天井等に施工されている。
・「吹付け石綿」と整理され、除去に際し必要となる飛散防止措置も「吹付け石綿」に係る措置が必要となる。
 
19)可とう形改修塗材
 
・複層塗材の改修等用材料としてJIS化された材料であり、石綿を含有していない。
・経年劣化した複層仕上塗材は可とう形改修塗材で既に改修等されているケースが多い。
その場合、既存の複層仕上塗材の表層に石綿を含有していない可とう形改修塗材が施工されていることになる。
→可とう形改修塗材層のみを更に改修等する場合は、石綿等を除去する作業には該当しない。しかし、建築物の解体等工事を実施する場合は、既存の複層仕上塗材中の石綿の有無を確認する必要がある。
石綿含有建築用下地調整塗材の種類
・下地調整塗材は、昭和40年代に塗料製造業者と日本住宅公団との共同で開発されたもので、当時はセメントフィラー(現在のJIS での略称は、下地調整塗材C-2)の名称で公団において規格化されたが、1983 年(昭和58 年)にJIS A 6916(セメント系下地調整塗材)として制定された。
・その後、1995年(平成7 年)のJIS 改正において合成樹脂エマルション系のほか、塗厚に応じて施工できるセメント系の下地調整塗材が追加され、合計5 種類の下地調整塗材が規格化された。
・何れの種類においても仕上塗材と同様に塗材のひび割れや施工時のダレを防止するために、石綿が少量添加材として使用されていた時期がある
 
1)下地調整塗材C(セメント系フィラー)
・販売期間(1970~2005年)、石綿含有量0.1~6.2%
 
2)下地調整塗材E(樹脂系フィラー)
・販売期間(1982~1987年)、石綿含有量0.5%
その他類似の仕上材
1)マスチック塗材
 
・石綿が含有している可能性がある。
・昭和40年代に日本住宅公団(現、独立行政法人都市再生機構)と塗料製造業者との共同で開発された塗材で、ローラー工法専用の塗材。
・マスチックA(外装薄塗材Eに相当)
・マスチックB(内装薄塗材Eに相当)※2009年(平成21年)に廃止
・マスチックC(複層塗材CEに相当)
 
2)外壁用塗膜防水材
 
・石綿が含有している可能性がある。
・JIS A 6021(建築用塗膜防水材)に規格化されている防水材で、適用部位によって屋根用と外壁用があるが、外壁用はJIS A 6909(建築用仕上塗材)の防水形複層仕上塗材と類似のもので、工事仕様は日本建築学会のJASS 8(防水工事)に標準化されている。
・外壁用塗膜防水材はJIS A 6021(建築用塗膜防水材)の中で規格化されているため、「石綿含有成形板等」の作業基準が適用されるが、その除去は石綿含有仕上塗材の除去と同様の手法で実施されることから、石綿飛散防止措置については石綿含有仕上塗材に係る措置を実施する。
石綿の有無の判別時の注意点
・石綿含有の可能性があるのは、仕上塗材の主材及び下地調整塗材であり、その他の構成部分に石綿は含有されていない。
・下地調整塗材は、仕上塗材を施工する前処理としてコンクリート躯体の不陸部分等を平たんにする目的で塗付けられる材料であり、必ずしも全面に塗付けられていないことに注意が必要。
・仕上塗材の改修等では上塗材の塗替えのみの場合、主材の劣化部分を除去する場合等があり、前者の場合は石綿除去に該当しないが、後者の場合は主材中の石綿の有無を判別する必要がある。
・場合によってはドライアウト等が原因となり、下地調整塗材と仕上塗材が一緒に剥離する劣化も起こる。
試料採取の留意点
1)仕上塗材の層構成と石綿が含有する層
 
・仕上塗材は、薄付け仕上塗材、厚付け仕上塗材、複層仕上塗材に大別されているが、いずれの仕上塗材においても石綿を含有する層は主材層。
・主材は仕上塗材の模様を形成するもので、下塗材や上塗材が数十μmの厚さであるのに対し、数mm の厚さを有しており、施工時のダレ防止や乾燥時のひび割れ防止を目的として石綿が使用されていた時期がある。
→既存仕上塗材層の分析を行う場合は、主材層を採取することが肝要。
 
2)試料の採取方法
 
・粉じんが飛散しないように採取面に無じん水を散布(噴霧)してから、カッターナイフ、スクレーパ等で仕上塗材表面部分から仕上塗材内部に刃先を入れ少しずつ削り採取する。
・試料採取に当たっては、十分な経験および知識を有する者が行う。
・石綿含有の可能性があるので、飛散防止対策を行うとともに、防じんマスク等の個人用保護具を着用する。
・改修または解体のいずれの場合においても、塗材の種類や工法が部位などによって異なっている場合や、棟によって施工業者が異なっている場合は、それぞれ別に採取する。
・塗り替え等の改修工事の場合は、分析用試料採取後、簡易補修を行う。
 
3)各種建築用仕上塗材の採取のポイント
 
〇薄付け仕上塗材(砂壁状仕上げなど)
・上塗材が使用されておらず、下塗材もほとんど層を形成していないので、仕上塗材と下地との界面にスクレーパやカッターナイフの刃先を入れ、仕上塗材を採取するのが一般的。
・薄付け仕上塗材は、膜厚が3mm 程度以下と薄いため、比較的広い面積の塗膜を採取する必要がある。
 
〇複層仕上塗材(吹付けタイル仕上げなど)
・上塗材・主材・下塗材があるが、上塗材の厚さは塗料と同じ数十ミクロンであり、下塗材もほとんど層を構成していない。
→複層仕上塗材層のほとんどが主材部分であり、これをカッターナイフ、スクレーパ、ノミ等削り取るのが一般的。
・複層仕上塗材は表面に凹凸模様のテクスチャーが付与されていることが多い。これらの凹凸部分を形成している主材は、どの部分であっても組成は同一。
・複層仕上塗材は下地への付着強度が高いので、下地と主材層との界面からきれいに剥離除去できない場合が多いと考えられる。このような場合は、主材層を部分的に破壊して採取することとなる。
 
〇厚付け仕上塗材(スタッコ仕上げなど)
・上塗材がある場合と上塗材がない場合がある。上塗材があったとしても仕上塗材層全体に占める質量比は僅か。 ・厚付け仕上塗材の主材層は厚く、その組成も均一であることから主材層を部分的に採取すればよい。
・厚付け仕上塗材層と下地との界面で剥離採取することはかなり困難。

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