債権の消滅、代位弁済、相殺

〇民法:474~512条の2
〇過去問
・管理業務主任者 H23問11、H27問4
・マンション管理士 H18問12、H21問17、H28問15
 
 
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弁済の概要
1)弁済とは(473条)
 
・弁済とは、債務者が、その内容である給付を実現して債権者を満足させる行為をいう。
・債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。
・弁済は、債務者が債権者に対して弁済の提供をし、債権者がこれを受領することで終了する。
 
2)弁済の提供(492、493条)
 
〇弁済の提供とは
・弁済の実現のために債務者自身でなし得ることを行い、債権者による”受領”という協力を待つ債務者の行為。
 
〇弁済の提供の効果(492条)
・たとえ債権者が受領しなくても、以後債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。
※弁済の提供のみでは債務自体は消滅しない。消滅させるには供託が必要。
例)不動産の引渡し債務において、買主が受領しない場合に弁性の提供を行った場合
・債務不履行責任を負わない
・目的物の保管義務(善管注意義務)が軽減する。
・危険が買主に移転する。
 
〇弁済の提供の方法(493条)
①現実の提供(原則)
・債務の本旨に従って現実にしなければならない。
例)代金を売主のもとに持参する。
②口頭の提供
・債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
 
3)特定物(土地、建物等)の現状による引渡し(483条)
 
・債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
 
4)弁済の手続き
 
●弁済の場所(484条)(契約で定められていない場合
〇特定物の引渡し(取立債務)
・債権発生の時にその物が存在した場所において弁済する。
〇上記以外(持参債務)
・債権者の現在の住所において弁済する。
・債権者が住所を変更した場合、新たな住所が弁済場所になる。
 
●弁済の費用(485条)(契約で定められていない場合)
〇弁済の費用
・運送費用、口座振り込みのための費用などのこと。
〇費用の負担
・債務者の負担とする。
ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
※売買の費用
・契約書の作成費用など、売買の費用は、当事者双方が平等の割合で負担する。
 
●受取証書の交付請求(486条)
・弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
※弁済と受取証書の交付は、同時履行の関係。
 
●債権証書の返還請求(487条)
・債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。
※債権証書の返還と全部の弁済は、弁済が先履行で、同時履行ではない。
 
5)弁済の充当(488~490条)
 
●債務が複数ある場合の充当
①合意があれば、それに従う。
②合意がない場合→弁済者が指定
③弁済者が指定しない場合→受領者が指定
④受領者も指定しない場合→弁済期などを基準として充当
イ)債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるもの優先。
ロ)全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いもの優先。
ハ)債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきもの優先。
ニ)前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
 
●費用・利息・元本の弁済の充当
①合意があれば、それに従う。
②合意がない場合→費用→利息→元本の順に充当する。
 
6)受領権限のない者等に対する弁済
 
●受領権者以外の者に対する弁済
 
〇原則(479条)
・受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。
 
〇受領権者としての外観を有する者に対する弁済(478条)
・受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
例)”取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの”
・預金通帳と印鑑(届出印)の両方を所持する者
・債権者の代理人と称するもの
・偽造の債権証書・領収書の所持人
・相続人にみえる者
 
●差押えを受けた債権の第三債務者の弁済(481条)
・差押えを受けた債権の第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
 
7)代物弁済(482条)
 
・弁済者が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において(諾成契約)、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
・代物弁済は、諾成契約で、代物給付したときに債務が消滅する。
→代物弁済契約を締結した後でも、債権者は当初の給付を請求でき、当初の給付がなされれば、代物弁済契約の債権も消滅する。
 
〇不動産の所有権で代物弁済する場合
・所有権移転登記など、対抗要件を具備するための行為を完了しなければ、弁済としての効力はない。
第三者の弁済
●第三者弁済(474条)
〇原則
・債務の弁済は債務者だけでなく、第三者でも債務者に代わってすることができる。
 
〇第三者弁済ができない場合
①債務の性質が、第三者の弁済を許さないとき
例)絵を描く画家の債務、コンサートを行う歌手の債務など。
②当事者が第三者の弁済を禁止・制限する旨の意思表示をしたとき
・正当な利益の有無に関わらず弁済できない。
 
●正当な利益を有しない第三者の弁済の制限
 
〇正当な利益を有しない者
・単に親子・兄弟・友人関係、など。
 
①債務者の意思に反する場合
原則)弁済できない。
例外)債権者が善意の場合
・債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、有効に弁済できる。
 
②債権者の意思に反する場合
原則)弁済できない。
例外)債務者の委託を受けての弁済の場合
・債務者の委託を受けての弁済であることを債権者が知っていたときは、有効に弁済できる。
 
※正当な利益を有する第三者(物上保証人、担保不動産の第三取得者など)は、債務者の意思に反しても弁済できる。
※保証人や連帯債務者は、債務者であって第三者ではないので、弁済が制限されることはない。
弁済による代位
1)弁済による代位とは
 
・弁済が、債務者以外の者によって行われたとき、弁済者は、債務者に対して求償することができる。
→債権者の権利が弁済者に移転(弁済による代位)
・弁済によって消滅すべき債権、およびこれに伴う担保物権や保証債務などが、代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償できる範囲内で、代位者に移転する。
 
2)法定代位
 
・弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
・任意代位の場合と違い、対抗要件は不要。
→債権者からの通知等は不要。
 
〇弁済をするについて正当な利益を有する者
・保証人、物上保証人、連帯債務者、担保財産の第三取得者など。
 
 
〇法定代位の例
・住宅ローンでは、延滞した場合、保証会社が銀行などに代位弁済をすることがあるが、これは単にその債務が銀行から保証会社に移るだけで、債務者のローン返済が免除される訳ではない。
・連帯保証人が融資の残額の全額を債務者に代わって弁済した場合、銀行が債務者に対して有していた債権及び抵当権を行使することができる。
 
3)任意代位
 
・法定代位以外の代位
・債権譲渡の対抗要件を備えなければ、第三者は、弁済による代位を主張することができない。
 
〇債権譲渡の対抗要件
・債権者から債務者へ”債権者の地位が弁済者に移転した”旨の通知、又は、 ・上記旨の債務者の承諾。
 
4)一部弁済による代位(502条)
 
〇代位者の求償権
・債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、債権者の同意を得て、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使することができる。
 
〇債権者の求償権
・上記の場合であっても、債権者は、単独でその権利を行使することができる。
 
〇債務不履行による契約の解除
・債権者だけが行使することができる。
・ただし、債権者が契約を解除したときは、代位者に、弁済した価格とその利息を返さなければならない。
 
〇抵当権が実行された場合の配当
・抵当権実行による配当については債権者が優先する。
 
5)保証人、物上保証人、第三取得者による代位(501条)
 
①第三取得者(債務者からの取得者)→保証人、物上保証人
・第三取得者は、保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
②第三取得者→第三取得者
・第三取得者の一人は、”各財産の価格に応じて”、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
③物上保証人→物上保証人(物上保証人からの取得者も物上保証人とみなす)
・②と同様。
④保証人→物上保証人
・その数に応じて、債権者に代位する。
⑤保証人→複数の物上保証人
・保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。
弁済の目的物の供託
●供託(494条)
 
・債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。
 
〇供託先
・供託所(法務局など)
 
〇供託が可能な状況
①受領拒絶
・弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
※受領拒絶に先だって、弁済の提供が必要。
②受領不能
・債権者が弁済を受領することができないとき。
・行方不明など。
③債権者不確知
・弁済者が債権者を確知することができないとき。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
・債権者不確知の立証は、弁済者が負う。
例)
・複数の者から支払い請求を受け、いずれの者に支払ってよいか分からない。
・家主が死亡し、賃料を支払うべき相続人が不明の場合。
 
〇賃貸借契約の場合
・賃貸人が建物の明渡請求をしてきただけでは、賃料受領の拒否の意思表示が明らかではなく、賃借人は、賃料相当額について直ちに供託はできない(判例)。
・賃借人が賃貸人から借賃の増額請求を受けたというだけでは、賃貸人が賃料を受領しないことが明らかであるとはいえず、少なくとも、口頭の提供をしなければ、供託は認められない(判例)。
 
●供託物の還付請求(498条)
・供託された場合、債権者は、供託物の還付を請求して、供託されたものを受け取ることになる。
 
●供託物の取戻し請求(496条)
・債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。
・上記は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。
相殺
1)相殺の方法と効果(506条)
 
●方法
・相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。
・上記意思表示には、条件又は期限を付することができない。
 
●効果
・相殺によって、双方の債権は、その対等額において消滅する。
・相殺は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
 
〇相殺の充当(512条)
・相互に1個または数個の債権・債務を有する場合は、当事者の合意によるほか、相殺に適するようになった時期の順序に従って、その対等額について相殺によって消滅する。
 
1)相殺禁止の意思表示(505条)
 
〇当事者間
・当事者が、相殺を禁止する旨の意思表示をした場合は、当事者間では相殺できない。
 
〇第三者に対する効力
・第三者が悪意または重過失のときに限り、相殺できない旨を、その第三者に主張することができる。
 
2)相殺の要件(相殺適状)
 
・相殺適状(双方の債務が、互いに相殺に適するようになった状態)であるには、以下の要件が必要。
 
①双方の債権が同種の目的を有すること
・双方の債権が、金銭債権など同種の目的を有していれば、債権額・履行期・履行地が異なっていても、相殺は可能。
 
②自働債権が弁済期にあること
・自己の債務(受働債権)は、弁済期より早く弁済できるので、自働債権の弁済期が到来していれば、受働債権については、弁済期が到来していなくても、相殺可能。
 
③両債権が存在すること
・双方の債権が有効に存在しなければ相殺できない。
・自働債権が時効により消滅した場合、消滅する前に相殺適状に達していれば、相殺可能。
・両債権が存在しても、自働債権に抗弁権(同時履行の抗弁、保証人の催告・検索の抗弁権など)が付着している場合には、相殺できない(判例)
 
3)相殺禁止の損害賠償債務(509条)
 
①生命、身体の侵害による損害賠償の債務(加害者)
・加害者からは相殺不可。
・生命、身体の侵害であれば、無過失のものや債務不履行のものも含まれる。
 
②悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務(加害者)
・加害者からは相殺不可。
・善意有過失の不法行為は、上記①を除き対象外。
 
※悪意による不法行為
・損害発生の可能性を認識しつつ行ったという以上に、より積極的な加害の意欲があって行われた不法行為のこと。
 
〇例外
・被害者からの相殺は可能。
・相殺の相手方の債権者が上記債務を他人から譲り受けたときは、相殺可能。
 
4)債権が第三者の差押えを受けた場合の相殺(511条)
 
・差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
A(αの債権者) →α債権→ B(αの債務者)
A(βの債務者) ←β債権← B(βの債権者)
           ↑
       C(差押債権者)がβ債権差押え
・Aのα債権取得が、Cの差押えより早ければ、Aは、相殺をCに主張できる。
・Aのα債権取得が、Cの差押えより遅ければ、Aは、相殺をCに主張できないが、α債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであれば、Aの相殺の主張は可能。

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