耐震改修促進法

〇建築物の耐震改修の促進に関する法律
〇過去問
・管理業務主任者 H13問24、H14問24、H16問26、H20問22、H23問21、H26問25、R2問44
・マンション管理士 H26問42
 
 
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耐震改修促進法の概要
1)施行、目的等
・平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災にかんがみ、建築物の地震に対する安全性を確保するため、建築物の耐震改修を促進することを目的として平成7年10月27日に施行された。
・多くの人が集まる、学校、事務所、病院、百貨店など、一定の建築物(特定既存耐震不適格建築物)のうち、現行の耐震規定に適合しないものの所有者は、耐震診断を行い、必要に応じて耐震改修を行うよう努めることが義務付けられた。
・耐震診断や耐震改修を促進するため、建築基準法の特例等が規定された。
 
2)耐震診断が義務付けられた建築物
 
①不特定多数・避難弱者が利用する大規模建築物等(要緊急安全確認大規模建築物)
・病院、店舗、旅館などの不特定多数の者が利用する建築物、学校、老人ホーム等の避難弱者が利用する建築物及び一定量以上の危険物を取り扱う建築物のうち大規模なもの。
 
②広域防災拠点となる建築物(要安全確認計画記載建築物)
・都道府県が指定する庁舎、避難所等の防災拠点建築物。
・大規模な地震が発生した場合において、その利用を確保することが公益上必要な病院、官公署、災害応急対策に必要な施設等の建築物として、都道府県耐震改修促進計画で指定したもの。
 
③避難路沿道の建築物(要安全確認計画記載建築物)
・都道府県又は市町村が指定する緊急輸送道路等の避難路沿道建築物
・大規模な地震等の災害が発生した場合に救命活動や物資輸送を行うための避難路(緊急輸送道路等)として、都道府県・市町村耐震改修促進計画で指定したものの沿道の建築物のうち、一定高さ以上、昭和56年5月末以前に建築されたもの。
 
3)耐震改修促進法に係る認定
 
①耐震改修計画の認定(法17条)
・建築物を耐震改修をしようとする者は、建築物の耐震改修の計画について耐震関係規定等に適合している旨の認定を受けることができる。
・地震に対する安全性が確保される場合は既存不適格のままで可とする特例。
・認定を受けることにより、建築確認手続きの特例、建築基準法の特例が適用される。(耐火建築物に係る制限、容積率及び建ぺい率など)

②建築物の地震に対する安全性の表示制度(法22条)
・建築物の所有者は、建築物が地震に対する安全性に係る基準に適合している旨の認定を受けることができる。
・認定を受けた建築物(基準適合認定建築物)は、広告等に、認定を受けたことを表示できる。
 
③区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定(法25条)
・耐震診断を行った区分所有建築物の管理者等は、当該区分所有建築物が耐震改修を行う必要がある旨の認定を受けることができる。
・認定を受けた区分所有建築物は、大規模な耐震改修を行おうとする場合の決議要件が緩和される。(区分所有法の特例:3/4以上→過半数)。
通行障害建築物、要安全確認計画記載建築物
1)通行障害建築物(令4条)
 
・地震によって倒壊した場合においてその敷地に接する道路の通行を妨げ、多数の者の円滑な避難を困難とするおそれがあるものとして政令で定める建築物。
・そのいずれかの部分の高さが、当該部分から前面道路の境界線までの水平距離に、次の各号に掲げる当該前面道路の幅員に応じ、それぞれ当該各号に定める距離を加えたものを超える建築物とする。
①12m以下の場合:6m
②12m超の場合:前面道路の幅員の1/2に相当する距離
例)前面道路の幅員が12m以下、境界線から水平距離が10mの高さ22mの特定建築物
・水平距離10m + 6m(幅員12m以下のため)=16m
→高さが22mの特定建築物は16mを超えるので該当する。
 
2)要緊急安全確認大規模建築物
 
・病院、店舗、旅館などの不特定多数の者が利用する建築物、学校、老人ホーム等の避難弱者が利用する建築物及び一定量以上の危険物を取り扱う建築物のうち大規模なもの。
・一定量以上の危険物を取り扱う貯蔵場、処理場のうち大規模なもの
 
3)要安全確認計画記載建築物(耐震改修促進計画に位置付け)
 
・都道府県又は市町村が指定する緊急輸送道路等の避難路沿道建築物
(建物に附属するブロック塀等を対象に追加)
・都道府県が指定する庁舎、避難所等の防災拠点建築物
基本方針、耐震改修促進計画の作成
1)国による基本方針の作成
 
●基本方針(法4条)
・国土交通大臣は、建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針を定めなければならない。
・国土交通大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
 
●基本方針の概要
○住宅、多数の者が利用する建築物の耐震化の目標
・75%(H15)
→少なくとも95%(H32)
→耐震性が不十分な住宅をおおむね解消(H37)
○耐震化の促進を図るための施策の方針
○相談体制の整備等の啓発、知識の普及方針
○耐震診断、耐震改修の方法(指針)
○ブロック塀等の安全対策
 
2)都道府県・市町村による耐震改修促進計画の作成
 
●都道府県耐震改修促進計画(法5条)
・都道府県は、基本方針に基づき、建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための計画を定めるものとする。
・通行障害既存耐震不適格建築物について、耐震診断を行わせ、又はその促進を図り、及び耐震改修の促進を図ることが必要と認められる場合、耐震診断の結果の報告の期限に関する事項を記載することができる。
 
●市町村耐震改修促進計画(法6条)
・市町村は、都道府県耐震改修促進計画に基づき、当該市町村の区域内の建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための計画を定めるよう努めるものとする。
・通行障害既存耐震不適格建築物の敷地に接する道路に関する事項及び当該通行障害既存耐震不適格建築物に係る耐震診断の結果の報告の期限に関する事項を記載することができる。
 
※通行障害既存耐震不適格建築物
・通行障害建築物であって既存耐震不適格建築物であるものをいう。
 
●耐震改修促進計画に掲げる主な事項
○建築物の耐震診断及び改修の目標
○目標達成のための具体的な施策
○緊急輸送道路等の指定(都道府県、市町村)
○防災拠点建築物の指定(都道府県)
要安全確認計画記載建築物の所有者の耐震診断の義務
●要安全確認計画記載建築物とは
・都道府県耐震改修促進計画に記載された道路に接する”通行障害既存耐震不適格建築物”。
・市町村耐震改修促進計画に記載された道路に接する”通行障害既存耐震不適格建築物”。
・大規模な地震が発生した場合において、その利用を確保することが公益上必要な病院、官公署、災害応急対策に必要な施設等の建築物として、都道府県耐震改修促進計画で指定したもの。
 
●要安全確認計画記載建築物の所有者の耐震診断の義務(法7条)
・要安全確認計画記載建築物の所有者は、耐震診断を行い、その結果を定められた期限までに所管行政庁に報告しなければならない。
 
●要安全確認計画記載建築物に係る(耐震診断に関する)報告命令等(法8条)
 
〇命令、公表
・所管行政庁は、要安全確認計画記載建築物の所有者が前条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、当該所有者に対し、相当の期限を定めて、その報告を行い、又はその報告の内容を是正すべきことを命ずることができる。
・所管行政庁は、前項の規定による命令をしたときは、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公表しなければならない。
 
〇代わりに実施
・所管行政庁は、1項の規定により報告を命じようとする場合において、過失がなくて当該報告を命ずべき者を確知することができず、かつ、これを放置することが著しく公益に反すると認められるときは、その者の負担において、耐震診断を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者に行わせることができる。
 この場合においては、相当の期限を定めて、当該報告をすべき旨及びその期限までに当該報告をしないときは、所管行政庁又はその命じた者若しくは委任した者が耐震診断を行うべき旨を、あらかじめ、公告しなければならない。
 
●要安全確認計画記載建築物の耐震改修
〇所有者の耐震改修の努力(法11条)
・耐震診断の結果、地震に対する安全性の向上を図る必要があると認められるときは、耐震改修を行うよう努めなければならない。
 
〇指導及び助言並びに指示等、公表(法12条)
・耐震改修の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは、必要な指導及び助言をすることができる。
・必要な耐震改修が行われていないと認めるときは、必要な指示をすることができる。
・前項の規定による指示を受けた所有者が、正当な理由がなく、その指示に従わなかったときは、その旨を公表することができる。
 
〇報告、立入り、検査等(法13条)
・必要な限度において報告させ、又はその職員に敷地・工事現場に立ち入り、検査させることができる。ただし、住居に立ち入る場合においては、あらかじめ、その居住者の承諾を得なければならない。
 
●通行障害既存耐震不適格建築物の耐震診断に要する費用の負担(法10条)
・都道府県は、通行障害既存耐震不適格建築物の所有者から申請があったときは、耐震診断の実施に要する費用を負担しなければならない。
・市町村は、通行障害既存耐震不適格建築物の所有者から申請があったときは、耐震診断の実施に要する費用を負担しなければならない。
特定既存耐震不適格建築物の所有者の努力
●特定既存耐震不適格建築物
・次に掲げる建築物であって既存耐震不適格建築物であるもの。
・要安全確認計画記載建築物であるものを除く。
①学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、老人ホームその他多数の者が利用する建築物で政令で定めるものであって政令で定める規模以上のもの(→令6条)
②火薬類、石油類その他政令で定める危険物であって政令で定める数量以上のものの貯蔵場又は処理場の用途に供する建築物
③その敷地が第5条第3項第2号若しくは第3号の規定により都道府県耐震改修促進計画に記載された道路又は第6条第3項の規定により市町村耐震改修促進計画に記載された道路に接する通行障害建築物
 
〇共同住宅
・共同住宅は、賃貸住宅の場合のみ特定既存耐震不適格建築物に含まれる。
・賃貸住宅(共同住宅に限る)は、階数が3で、かつ、床面積の合計が1,000㎡以上のものはこれに該当する。
・賃貸住宅ではなく、分譲マンション(既存耐震不適格建築物であるものに限る)であっても、上記③の「都道府県耐震改修促進計画に記載された道路又は市町村耐震改修促進計画に記載された道路に接する敷地に建つものにあっては、道路の幅員などによって決まる限度以上の高さの部分がある場合」には、上記努力義務がある。
 
●特定既存耐震不適格建築物の所有者の努力(14条)
・所有者は、耐震診断を行い、その結果、地震に対する安全性の向上を図る必要があると認められるときは、耐震改修を行うよう努めなければならない。
 
●特定既存耐震不適格建築物に係る指導及び助言並びに指示等(15条)
①必要があると認められた場合→指導・助言
・所管行政庁は、耐震診断及び耐震改修の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは、所有者に対し、技術指針事項を勘案して、耐震診断及び耐震改修について必要な指導及び助言をすることができる。
②行われていないと認められた場合→指示
・所管行政庁は、その敷地が都道府県又は市町村耐震改修促進計画において記載された道路に接する特定既存耐震不適格建築物について必要な耐震診断又は耐震改修が行われていないと認めるときは、所有者に対し、技術指針事項を勘案して、必要な「指示」をすることができる。
※特定既存耐震不適格建築物の所有者が「報告」する義務はない。
③公表
・所管行政庁は、前項の規定による指示を受けた所有者が、正当な理由がなく、その指示に従わなかったときは、その旨を公表することができる。
④立入り、検査
・所管行政庁は、前2項の規定の施行に必要な限度において、所有者に対し、報告させ、又はその職員に、敷地・工事現場に立ち入り、検査させることができる。
既存耐震不適格建築物の所有者の努力
●既存耐震不適格建築物の所有者の努力等(16条)
・既存耐震不適格建築物の所有者は、耐震診断を行い、必要に応じ、耐震改修を行うよう努めなければならない。
・所管行政庁は、前項の耐震診断及び耐震改修の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは、所有者に対し、技術指針事項を勘案して、耐震診断及び耐震改修について必要な指導及び助言をすることができる。
 
※従来は多数の人が利用する一定規模以上の「特定建築物」を対象としていたのに対して、改正後では戸建て住宅などの小規模建物を含む、基本的に全ての旧耐震基準建築物を「既存耐震不適格建築物」として努力義務の対象としている。
耐震改修の計画の認定(法17条)
●申請
・「建築物」の耐震改修をしようとする者は、建築物の耐震改修の計画を作成し、所管行政庁の認定を申請することができる。
※特定既存耐震不適格建築物に限らない。
 
●申請書の記載事項
・建築物の位置
・建築物の階数、延べ面積、構造方法及び用途
・建築物の耐震改修の事業の内容
・建築物の耐震改修の事業に関する資金計画
・その他国土交通省令で定める事項
 
●既存不適格(建築基準法3条2項)のままで可とする特例
・既存不適格建築物で耐震改修を目的とした増築、改築、大規模の修繕、大規模の模様替を行う場合
→認定を受けた耐震改修工事を行う際には、耐震基準以外は既存不適格でも可。
 
●増築を伴う耐震改修工事の容積率・建ぺい率の特例
・増築を伴う耐震改修時工事によって、当該建築物が容積率・建ぺい率制限に適合しなくなる場合において、やむを得ないと認められ、認定された範囲内で、容積率・建ぺい率制限を緩和。
 
●耐火建築物にかかる制限の緩和
・柱or壁を設け、又は柱orはりの模様替をすることにより、耐火建築物にかかる規定に適合しなくなる場合。
・所管行政庁によって耐震改修計画の認定を受けた場合、耐火建築物にかかる制限の緩和が認められる。
 
●計画の認定
・認定を受けた計画に係る建築物については、建築基準法の規定の緩和・特例措置がある。
・住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の資金の貸し付けの特例
 
●建築基準法の建築確認の申請
・建築物の耐震改修の計画が建築確認を要するものである場合において、所管行政庁が計画の認定をしたときは、確認済証の交付があったものとみなされるので、建築確認の申請の手続きは不要である。
地震に対する安全性に係る認定等(法22条)
・耐震診断や耐震改修により現在の耐震基準と同等の耐震性を持つと確認された場合、所管行政庁が、建築物の地震に対する安全性を認定する。
・認定を受けた建物(基準適合認定建築物)の所有者は、その敷地又はその利用に関する広告その他の国土交通省令で定めるものに、認定を受けている旨の表示を付することができる。
→認定を受けた建築物の所有者は、当該基準適合認定建築物が認定を受けている旨の表示を付することが「できる」。表示しなければならないわけではない。
 耐震診断・耐震改修マークの表示は任意。また、マンションは該当していない。
区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定等
●区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定(法25条)
 
①申請
・耐震診断が行われた区分所有建築物の管理者等は、所管行政庁に対し、耐震改修を行う必要がある旨の認定を申請することができる。
 
②認定
・所管行政庁は、前項の申請があった場合において、地震に対する安全上耐震関係規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認めるときは、その旨の認定をすることができる。
 
③要耐震改修認定建築物
・前項の認定を受けた区分所有建築物のこと。
 
④共用部分の変更に該当する場合の決議
・要耐震改修認定建築物と認定されれば、耐震改修工事により共用部分を変更する場合に必要な区分所有者及び議決権が、各3/4以上から過半数へと減じられる。
→合意形成の要件が緩和され、耐震工事が容易になった。
 
●要耐震改修認定建築物の耐震改修に係る指導及び助言並びに指示等(法27条)
 
〇指導・助言
・所管行政庁は、区分所有者に対し、技術指針事項を勘案して、要耐震改修認定建築物の耐震改修について必要な指導及び助言をすることができる。
 
〇指示
・所管行政庁は、必要な耐震改修が行われていないと認めるときは、要耐震改修認定建築物の区分所有者に対し、技術指針事項を勘案して、必要な指示をすることができる。
 
〇公表
・所管行政庁は、指示を受けた要耐震改修認定建築物の区分所有者が、正当な理由がなく、その指示に従わなかったときは、その旨を公表することができる。
 
〇報告、立入り・検査
・所管行政庁は、前二項の規定の施行に必要な限度において、要耐震改修認定建築物の区分所有者に対し、地震に対する安全性に係る事項に関し報告させ、又はその職員に、敷地・工事現場に立ち入り、検査させることができる。

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