マンション防水工事の実際、注意点

マンションの改修工事で使用されている防水工事の工法、注意点等についてまとめました。
※他の参考記事
マンションの防水の概要、種類、調査、改修
アスファルト防水の工法の種類、改修方法
シート防水の工法の種類、改修方法
塗膜防水、ウレタン塗膜防水の概要
防水改良工事の概要
 
 
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新築時の屋上防水
1)シート防水(”貼る”工法)
 
〇工法の概要
・あらかじめ工場でシート状に成型した防水材料を屋上に張って防水層を形成。
・シートのつなぎ合わせを確実に行わないと漏水の原因となる。
 
〇採用状況
・近年では、新築時からシート防水工法を採用した建物も見られるようになってきた。
・合成ゴム系、塩化ビニル系などのシート同士を適切に接着して大きな膜を形成して防水層とする。
・多くの人の歩行に対応した工法ではない。
 
2)塗膜防水(”塗る”工法)
 
〇工法の概要
・液状の防水材料を塗って連続被膜を形成。塗布後は化学反応などにより強固な防水層を形成。
・厚みの薄い部分が弱点となってしまう。
 
〇採用状況
・塗膜防水は、新築時のマンションの屋根防水に使用されることは非常に少ない。
・使用される部位は、バルコニーの床面、出窓の上面程度。
・大規模修繕時に改修工法として多く使用される。
・人が歩くことにより経年で摩耗したり、紫外線劣化も起こすので適宜のメンテナンスが必要。
 
3)アスファルト防水(”塗る+貼る”工法)
 
〇工法の概要
・アスファルトルーフィングを同材質の溶融アスファルトで貼る。
→貼る工法の弱点であるシートのつなぎ目が液状のアスファルトで埋められる。
 
〇採用状況
・屋根防水として最も歴史がある。
・防水性能が高く、耐久性に優れている。
・アスファルトシートは腐食して劣化するような材料ではないので、施工が適切に行われていれば30年以上経っても漏水が起きていない建物もある。
・上面にコンクリートを打設してアスファルトシートを守る保護アスファルト防水であれば、耐久性も高く、その上を多くの人が歩行することも可能。
全面撤去工法とかぶせ工法
・屋上防水の改修工事には既存の防水層を撤去して改修する方法と既存の防水層の上に新たな防水層を設置するかぶせ工法がある。
・下地が露出防水層か保護層かで施工方法が異なる。
 
1)全面撤去工法
 
・旧防水層を全て撤去し、下地調整(躯体修繕、表面処理、水回り・ドレン回り等の各部処理)を行った上で新規防水を施す。
・旧防水層の下に侵入している隠蔽水を乾燥し、再防水することができる。
・新築同様の下地条件を作れるため、防水の選択も比較的自由に行なえる。
・コストアップ、撤去による騒音、廃棄物の発生、工事の長期化、撤去中の雨養生などの問題を含んでいる。
 
2)かぶせ工法
 
・旧防水層をできるだけ撤去しないで、その上に防水を行なう方法。
・旧防水層の劣化部を除去し修繕を行った上で、既存防水層の平坦部を残した上に新規防水を施す。
・下地の痛み具合の診断能力や下地処理方法の選定能力が要求される。
・既存防水層の下に隠蔽水が残ったままになる。
 
●かぶせ工法の利点
 
①撤去、廃材処理費用が掛からない
②工期が短い
③施工中の雨養生が必要ない
④産業廃棄物の発生を抑えられる
⑤撤去時の騒音・粉塵の発生が無い
 
●絶縁工法、密着工法
 
・かぶせ方式を採用する場合は、基本的に絶縁工法によるものとし、脱気装置を装填する。
・かぶせ方式でも施工面積が一定以下の場合は密着工法を採用することがあるが、既存の防水層及び保護層には経年により多くの水分が含まれているので、一定面積以上を密着工法で施工すると、閉じ込められた水分が蒸発できずに、新しい防水層を膨れさせ、剥離や損傷につながるおそれがある。
 
●かぶせ工法による改修時の注意点
 
・既存防水層の下にある隠蔽水が蒸気化し、防水層を突き上げ、新規改修防水層を膨らませたり、これが原因で漏水を起こす場合がある。
・隠蔽水が蒸気化した場合に備え、蒸気を抜くための脱気筒と呼ばれる小型の煙突状のもの取り付けるのば一般的だが、隠蔽水の量によっては完全に脱気筒から抜けるのに数年かかる場合もある。
・脱気筒は、水分が多いところ、蒸気が上がりやすそうな位置に設置するが、既存防水層の膨れ箇所からの推測となる為、完全なものとはならない。
・防水改修時に既存防水層の切開補修等を行い、隠蔽水を減らすように施工しても、限界はある。
全面改修時の注意点
1)露出アスファルト防水の被せ工法による改修
 
・同じアスファルトシートを上から1層増し張りする工法、シート防水機械式固定工法などがある。
・上記いずれの工法の場合も、既存の防水層の部分補修を行うところから始め、適切な下地を作ってから被せることが重要。
 
2)ウレタン塗膜による改修
 
・ウレタン塗膜は、適切な厚みを確保することが重要で、基本的にはウレタン主材を2度塗りして膜厚を確保する。
 立ち上がり部分では、塗膜が垂れて流れることが無いように、補強メッシュシートを入れて適切な膜厚を確保する必要がある。
 
〇トップコートに関する注意点
・塗膜防水の場合、次の大規模修繕時には基本的にはトップコートを重ね塗りすれば良いのだが、フッ素系の場合は既存のフッ素トップを目荒らしする一手間が必要で、洗浄だけでは塗り重ねが困難。
→シリコン系の場合は、フッ素トップと同等の耐候性を持ちながら塗り重ねも洗浄だけで済むので、現在では主流のトップコートとなりつつある。
 
〇塗り重ねの回数
・主材も2回塗り重ねると荷重も増大するので、3回目の塗り重ねを検討する際には、基本的には全撤去して再度塗膜防水層を形成することも検討する。
全面改修を行わず部分改修
1)全面改修ではなく、部分補修でも対応可能な不具合の例
 
・保護コンクリート面のひび割れ、目地部分の樹脂製カバーの破損
・露出アスファルト防水のシート間の溶けてはみ出したアスファルトの表面にできたひび割れ
 
2)露出アスファルト防水の部分補修
 
・1回目の大規模修繕工事の場合などで、一部に膨れが出来ている程度で漏水も見られない、新築時の施行に問題がない、のであれば部分補修でも可能。
・ドレン廻りや伸張通気管廻りなどの細部の防水補強と防水層表面の保護塗装により延命化を図る。
 
〇パッチ補修
・膨れた部分を切開して中の水分を抜き、乾燥させてから新たにアスファルト防水を張り付ける。
 
〇アスファルトコーチングの打ち増し
・立上がり端末をアルミアングルで固定してある部分を打ち増し。
 
〇保護塗装
・平面部の防水層を保護するために保護塗装。
 
3)保護アスファルト防水の部分補修
 
・立ち上がり部分で防水層の一部が露出している箇所やパラペット廻りの部分的な防水処理を行う程度で良い場合も多い。
 
〇立上がり端部が保護コンクリートの熱伸縮により破断している場合
・部分補修は可能。
→この不具合は新築時の保護コンクリートの施工不良に起因する破断であり、単なる経年劣化ではない。(元施工者との交渉などが必要となる事例)
 
〇部分補修方法
・立ち上がり際の保護コンクリートを60㎝程度ハツリ取り、アスファルト防水層を増し張りして健全な状態とし、露出部分に保護塗装をかけた上で置き敷きのブロックを置き敷きのブロックを敷設して保護する。
床面の防水処理
●バルコニーや共用廊下の床面
・直下が居室でないことから、新築時に十分な防水処理が施されていない場合がある。
・最近のマンションは床面に防滑ビニル製シートを張り付けて仕上げているものが多くみられるが、意匠的な意味合いが強く、シート端末にシーリング処理が行われていない場合もある。
・床面のシートの状況が良好で張替えを見合わせる場合でも、排水溝廻りなどの部分的な防水処理とシート端末のシーリング処理を行うことが望ましい。
 
●防滑性
〇ウレタン塗膜防水
・主材の上に珪砂を散布。
・トップコートに専用の樹脂チップを混ぜる。
〇長尺塩ビシート
・様々な凹凸をパターン状につけるなどしてグリップ性を向上。
〇注意点
・防滑性を追求しすぎると汚れがつきやすくなる。
 
●既存の階段ノンスリップの処置
〇既存のノンスリップを活かす場合
・ノンスリップの位置で防水層としては分断されるので一体性がなくなる。
〇既存のノンスリップごと防水層で被せた後に新たにノンスリップ設置
・ノンスリップの厚みの分だけ踏面から突出してしまうので、つまずきやすくなることにも対処が必要。
 
●メンテナンス
〇ウレタン塗膜防水
・比較的柔らかい材料で、鋭利なもので引っ掻いたり、物置などの重量物を引きずったりすると、塗膜が破れてしまう。
・タバコの火が落ちると抜けて穴があいてしまう。
〇清掃
・管理清掃業務にポリッシャー清掃が加わる。
アスファルトシングルの概要と修繕の注意点
●アスファルトシングルとは?
 
・ガラス繊維基材にアスファルトを含浸、塗布し、彩色砂など意匠と主層の保護を目的とした材料で圧着して裁断したもの。
・下層にある防水層の紫外線劣化保護と意匠的な見栄えが主目的。
 
●アスファルトシングルの劣化
 
・化粧用に施された砂が風雨にさらされ続けるため、経年とともの砂落ち汚れが生じる。
・砂落ちがあったからといって、必ずしも防水層の劣化がかなり進んでいる、とは限らない。
 
●再塗装による保護を行う場合の注意点
 
・シングル材表面に反りが発生する恐れがある。
・シングル材裏に侵入した雨水は、下にある防水層の表面を流れて隙間から流出するようになっているが、この隙間を塗材で接着してしまうことがあり、雨水滞留を起こす可能性がある。
 この雨水滞留の湿気によって塗装材の発泡が発生する可能性がある。
・次回改修時、シングル上塗材の付着力に問題があり、カバー工法が採用できず、全面撤去になる可能性がある。
防水層改修後の水溜まり
●屋上防水かぶせ工法による改修後の水溜まり
 
・既存の防水層の勾配を変えることが難しいため、既存の水溜まりは直せないことがある。
・改修前の防水層より新規の防水層の方が表面張力が強いため、水溜まりが目立つようになってしまう場合もある。
・ウレタン等塗布防水以外のかぶせ工法の場合は、防水層の重ね部の厚み自体によって水溜まりが発生する可能性がある。
・1~2日程度で無くなる水溜まりであれば、防水保証上、問題ないといえる。
 
●廊下、バルコニー床防水層の改修後の水溜まり
 
○コンクリート露出→塩ビシート防水、ウレタン塗膜防水
・新規防水層の表面張力向上によって水溜まりが発生しやすくなる。改修前はコンクリートに染み込んでいたものが下に水を通さなくなったため、水が残留しやすくなったことが要因。
 
○パターン化されたデザインのシート
・防滑性を高めるためパターン化されたデザインのものは、水の流れが遮られやすい。
 
○水捌け勾配の限界
・水溜まりをなくすには、事前に下地コンクリート面にモルタル等で水勾配の処置が必要となるが以下の理由で限界がある。
 ・構造的に重量が多くなる。
 ・廊下では住戸扉位置の関係で不可能の場合がある。
 ・排水溝では、排水口の距離から勾配が取りきれなかったり、下地に溝を掘って導水溝設けると溝にほこりが溜まり易いなどの問題もある。
 
○床の凹みの程度
・深さ1.5mm以下の凹みの場合、人的技量では平滑に補修するのは困難。
・1.5mm以上かの判断方法として、約1.5mm厚の10円玉を水溜まりに沈めて、10円玉が沈んでしまうような場所を補修部分の目安として判断するケースもある。

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